私だけ聴こえるの映画専門家レビュー一覧

私だけ聴こえる

耳の聴こえない親から生まれた耳の聴こえる子どもたち、“コーダ”のドキュメンタリー。学校では耳の聴こえる子たちと馴染めず、ろうの世界でも距離を置かれ、どこにも居場所のないコーダの子どもたち。多感な時期を過ごす15歳のコーダたちの3年間を追う。2016年TokyoDocsにて最優秀企画賞を受賞。監督は、ドキュメンタリー『東京リトルネロ』で第58回ギャラクシー賞奨励賞を受賞した松井至。
  • 脚本家、映画監督

    井上淳一

    映画で学んだこと数知れず。コーダという存在もアカデミー賞映画で初めて知った。そして本作でコーダの内面を知る。聾の親は聴者の自分の気持ちが分からない、聴者の世界にも馴染めない。どちらからも疎外感を感じるとコーダの少女は言う。想像すら及ばない孤独。少女は耳が聞こえなくなっていると病院へ行く。聴覚を失ったら、ようやく聾として生きていける。両親や兄を初めて理解できる。でもまたゼロからのスタート?と少女は揺れる。その結末は映画館で学ぶべし。不覚にも泣いた。

  • 日本経済新聞編集委員

    古賀重樹

    アカデミー賞受賞作ですっかり有名になったコーダ(チルドレン・オブ・デフ・アダルツ)のコミュニティーに長年取材してきた監督によるドキュメンタリー。社会の中で疎外され孤立した存在としてのコーダの姿を正面から描いており、その暗部から目をそらさないところに好感をもった。東日本大震災での手話通訳者との出会いから、コーダに興味をもち、アメリカでの取材を敢行した行動力にも敬服する。日本ではどういう状況にあるのだろう。そういうことも気になってくる。

  • 映画評論家

    服部香穂里

    何かと話題を提供した今年のアカデミー賞だが、コーダの存在を浸透させた功績は大。タイムリーな本作は、ろう者にも聴者にも完全にはなじめぬ彼らが、米国各地のコーダが集うキャンプでは水を得た魚のごとく駆け回る、青春の光と影を映す。日本滞在経験もある手話通訳の女性が、ろうの両親に懸命に津波を知らせ避難し得た息子さんに、日米の違いを超え同じ“人種”として共感を抱く場面は、言葉にせずとも伝わる、かけがえのない何かを目の当たりにできたような感慨が込み上げる。

1 - 3件表示/全3件