肉体関係から始まる大人の純愛。ときめきの発生装置は「紳士的な男性キャラ」にあった

肉体関係から始まる大人の純愛。ときめきの発生装置は「紳士的な男性キャラ」にあった

「めちゃコミック」ランキング1位獲得、累計1100万DLを突破した漫画「凛子さんはシてみたい」が、高田夏帆とA.B.C-Z戸塚祥太のW主演でドラマ化。MBS/TBS系列の深夜ドラマ枠「ドラマイズム」での放映時にも話題を呼んだ本作のブルーレイ&DVDが、2022年6月1日に発売となる。

アラサー男女の肉体関係から始まる “オトナのうぶキュン”な恋愛物語「凛子さんはシてみたい」、そのドラマ版の見どころはたくさんあるが、まずは「あらすじ」から紹介しておこう。

デキる女とモテ男の、ある意外な共通点 

ウェディングプランナーで27歳の雨樹凛子(高田夏帆)は、職場ではデキる女として後輩から慕われる「いい女」を絵に描いたような存在。凛子と同期の上坂 弦(戸塚祥太)は、契約数1位を誇る営業部のホープ。常にクールで謎めいた雰囲気を醸し出しており、女子社員の人気を集めていた。そんな「イケてる」ふたりには、周囲には知られていないひとつの共通点があった。それは、「性交渉の経験がない」ことだ。

自分に自信は持っているが、昔から恋愛に疎く、男性経験がないことに劣等感を抱く凛子は、ある日幼馴染の園子(ゆん)と合コンに参加。しかし不発に終わり、飲み直そうとバーに立ち寄る。するとカウンターでは、同期の上坂がひとりグラスを傾けていた。バーのマスターの久地(飯島寛騎)と上坂は、高校時代の同級生だという。

そこで凛子は、久地から衝撃の事実を教えてもらう。生まれながらのモテ男に見えた上坂は昔から大の奥手で、今でも女の子に話しかけられないという。さらに、そんな性格が影響してか、いまだに女性経験はゼロ。ということは……男性経験ゼロの自分も馬鹿にしないだろうし、口も硬いはず! そう睨んだ凛子は、上坂に「脱・未経験パートナー協定」を結ばないかと持ち掛ける。

セフレじゃないけど恋人でもない、いびつな関係

無事に(?)協定は結ばれ、ふたりのいびつな肉体関係がスタートする。のだが、ドラマを観ているとふたりがあまりに魅力的で、名前を呼び捨てすることに胸が痛んだ筆者。「めちゃコミック」のレビュー欄に感想を寄せる原作ファンの皆さん同様、ここではあえて「凛子さん」「上坂くん」と表記させていただきたい。

プライドを持って仕事に打ち込む凛子さんは、男性経験がなくたってじゅうぶん魅力的な女性だし、それは上坂くんも同じだ。「処女」や「童貞」がいつからコンプレックスの象徴のように扱われるようになったのか定かではないが、未経験を理由に焦りを募らせる凛子さんは、もはやひとりの犠牲者と言えるかもしれない。しかし、そんな世の中に恨み節を言っているヒマはない! とにかく行動あるのみ! と言わんばかりに、凛子さんは目的達成のためひたすら突き進む。貞操を自ら差し出す時、しばしば「捨てる」という言い方をするが、凛子さんはまさに捨て身の覚悟で、真正面から上坂くんに迫っていくのだ。

アラサー同士の、しかも同じ職場の同僚との肉体関係は“クールに後腐れなく”といけばいいが、凛子さんはそもそもピュアだし、上坂くんはとっても不器用。園子から「それってセフレじゃん」と突っ込まれて初めて凛子さんはハッとするも後には引けず、関係を結ぶたびにお互いの新たな一面に触れ、異性として意識し始めてしまう。感情の揺れを相手に悟られまいとひた隠そうとするふたり。その駆け引きにもならない素直すぎる反応が、本作が掲げるテーマの“うぶキュン”そのものでなんとも微笑ましい。

どこまでも「紳士的」な男性キャラたち

ときめきのツボはもちろん人それぞれにせよ、筆者が本作を安心して楽しめたのは大きくふたつの理由があると思う。ひとつは、関係性の主導権を握っているのが基本的に凛子さんだということ。恋愛ドラマでは、男性主導のラブシーンを胸キュンポイントとして描くことも多いが、本作ではラブホテルに誘うのも、家に訪ねていくのも、関係性の行方を決めるのも凛子さんの意思が中心。恋愛下手ながら「大人の女性」として自立した強さも感じられ、アラフォー女性の筆者は思わず応援したくなってしまうのだ。

そしてもうひとつの理由は、登場する男性キャラクターたちの「紳士的な振る舞い」が挙げられる。上坂くんは、凛子さんと結んだ協定を逸脱するようなことはしないし、肉体関係を持っても女性を所有物化せず、苗字に「さん」づけで呼び続ける。凛子さんに密かに好意を抱くカメラマンの緋山さんも、「力づくで奪う」の真逆をいくかのように、凛子さんの気持ちをとことん尊重してくれる。こうした男性キャラクター陣の誠実さが、“オトナのうぶキュン”の発生源なのではないだろうか。

上坂くんがつぶやく、「隠さないで、全部見せて。きれいだから」「余裕あるふりくらいさせろよ」「もう、止めんの無理だから」といったセリフたち。さらに凛子さんのドキドキが伝わってきそうな、会社での壁ドン(凛子さんの反撃もあり)にお風呂でのバックハグ。ふたりの恋の行方を描くうえで、見どころのひとつとなる肉体関係を結ぶシーンも、上坂くんの紳士的なキャラクターを殺さぬよう美しく繊細に描かれている。

大人の恋愛を爽やかに演じ切ったW主演

本作はW主演作品ということもあって、凛子さんと上坂くん、どちらか片方の感情だけを優先したり蔑ろにすることのないように描かれる。双方がそれぞれ苦しみ、ときめき、悩む様子を描いたうえで心を寄せ合っていくからこそ、見ている側も心がザワつかせずに温かい気持ちで行く末を見守れる。もちろん、そうできるのは主演ふたりの演技力によるところが大きいだろう。

凛子役を務めた高田夏帆は、現在放送中のNHK連続テレビ小説「ちむどんどん」で主人公の親友・前田早苗役を演じている、今最注目の若手俳優。朝ドラの早苗と本作の凛子さんではあまりに雰囲気が違うため、一瞬同じ俳優だと気づかない人も多いかもしれない。つまりは、その演技力の高さが魅力のひとつなのだ。本作でも、バリキャリ女性としてのオンの顔と、恋愛下手でうぶな素顔を見事に演じ分け、「漫画の中の凛子さん」に“現実にもいそうな等身大のアラサー女性”としての魅力を吹き込んでいる。

もうひとりの主演、上坂 弦役を務めたA.B.C-Zの戸塚祥太は、特典のメイキング映像で「僕とはまったく逆の役どころ」と振り返る。そんな「上坂くん」を愛すべきキャラクターに育て上げ、磨き抜かれた肉体美も惜しみなく披露した本作は、俳優・戸塚祥太の魅力を再認識できる作品だろう。劇中ではクールでポーカーフェイスな上坂くんだけに、笑顔のショットがふんだんに収録されたメイキング映像は、ファンには嬉しい内容ではないだろうか。なお、ドラマのオープニング主題歌「火花アディクション」は、「紅蓮華」の草野華余子が作詞作曲を担当。歌うのはもちろん、A.B.C-Zだ。

上坂くんの恋敵となるカメラマン・緋山余一役は「ポルノグラファー」でブレイクした猪塚健太が務めるほか、「仮面ライダーエグゼイド」の飯島寛騎、人気YouTubeのゆん(ヴァンゆん)、「テラスハウス」出演後女優として活躍する筧美和子らが、主演ふたりの脇を固める。なかなか進展しないふたりにさりげなくスルーパスを出してくれる、彼らのキャラクターにもぜひ注目してほしい。

大人になってはや幾年。ファンタジーすぎる恋愛ドラマには食指が動かない。かといって、男性がぐいぐい来る恋愛ドラマも見ていて疲れる……。仕事に家庭にと何かと気持ちを削がれがちな大人の女性を癒し、ときめかせてくれるのは、本作のような“心も体も対等な関係で描かれるラブストーリー”なのかもしれない。

文=金澤英恵 制作=キネマ旬報社

『凛子さんはシてみたい』

●6月1日(水)Blu-ray BOXDVD-BOX リリース(全8話)※レンタル同日リリース
Blu-ray&DVDの詳細情報はこちら

●Blu-ray BOX:15,840円(税込) DVD-BOX:12,540円(税込)
【映像特典】約50分
・メイキング
【封入特典】
・カラーブックレット

●2021年/日本
●出演:高田夏帆、戸塚祥太(A.B.C-Z)、筧美和子、飯島寛騎、ゆん(ヴァンゆん)、牧野莉佳、林ゆめ、京典和玖、猪塚健太
●監督:椿本慶次郎、戸塚寛人 脚本:倉光泰子 原作:藤田みお「凛子さんはシてみたい」(めちゃコミックオリジナル)
●発売元:「凛子さんはシてみたい」製作委員会 販売元:株式会社ハピネット・メディアマーケティング
©「凛子さんはシてみたい」 製作委員会・MBS