流浪の月の映画専門家レビュー一覧

流浪の月

2020年本屋大賞を受賞したベストセラー小説を、「怒り」の李相日監督が映画化。大学生の文は10歳の更紗の意を汲み彼女を部屋にあげ、そのまま一緒に暮らしていたところ、文は誘拐の罪で逮捕される。15年後、事件の烙印を背負ったままの二人は偶然再会し……。誘拐事件の被害女児として広く知られた家内更紗を広瀬すずが、事件の加害者とされた佐伯文を松坂桃李が演じる。また、「パラサイト 半地下の家族」など数々の韓国映画を撮った撮影監督ホン・ギョンピョや、「ヘイトフル・エイト」「悪人」など国内外の作品の美術を手がけてきた種田陽平が参加している。
  • 脚本家、映画監督

    井上淳一

    ワンカット目から圧倒的に映画。これぞ映画。画面に釘付けになるが、だんだん怪しくなる。広瀬と松坂が再会する辺りから、物語の破綻が目立ってくる。ネット→ネットメディア→週刊誌に出る。その間の本人や周囲の反応が悪い。週刊誌は直撃取材するでしょ。そして定番の警察の便利使い。しかし一番の問題はまさかの病気オチ。病気にすべての原因を求める作劇はテーマを矮小化するどころか壊している。「悪人」「怒り」、原作選び&脚色が下手なのでは。李相日の代表作ってなんだ?

  • 日本経済新聞編集委員

    古賀重樹

    美しい映画だ。一つはホン・ギョンピョの撮影の美しさ。夕暮れや明け方を狙い、空、雲、月、風、水の動きを繊細にとらえる。まるで水中のような喫茶店内も含め、薄明かりのトーンが貫かれている。もう一つは物語のシンプルさ。元誘拐犯と被害女児の再会という設定自体はスキャンダラスだが、広瀬すず演じる主人公の思いは一途で揺らぐことはない。そこがドロドロした内面に下りてゆく吉田修一原作の「悪人」「怒り」と違うところ。これはこれで李相日の新境地として評価したい。

  • 映画評論家

    服部香穂里

    「シベールの日曜日」の後日談風の趣もあるが、忍ぶ恋をネット社会で成立させる難度を痛感。15年前のパートが秀逸ゆえ、その幸せを“世間”に壊された過去に学ばず同様の道を突き進むふたりに、決然たる確信よりも短絡的な無謀さを覚え、前のめりになりきれぬ温度差を感じる。文の恋人の存在に安堵しつつ無視するがごとき更紗の言動に成熟が見えぬ分、焦りを募らせる文の切なさも、松坂桃李の巧演あっても十分に機能したのか否か、さらなる感銘への期待にもどかしさも残る。

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