時空を超えて痛快な“辻褄合わせ”に奔走するSFラブコメ『時をかけるな、恋人たち』

吉岡里帆ふんする現代人と永山瑛太ふんする未来人が、禁断の恋と辻褄合わせのためにタイムトラベルを繰り返して、恋の超展開を見せるSFラブコメディ『時をかけるな、恋人たち』。挑戦的なドラマ作りに定評のあるカンテレが制作し、SFコメディが得意なヨーロッパ企画の上田誠が脚本を手掛けた、このオリジナルドラマのBlu-ray BOXとDVD BOXが、4月26日にリリースされた。全編に伏線が張り巡らされており、何度も見返したくなるドラマとなっている。

前半は時をかけてでも恋に生きようとする未来人たちの1話完結の物語

ドラマ『時をかけるな、恋人たち』は、フジテレビ系列の火ドラ★イレブン枠で全11話を放送。30分枠だったため、ドラマ本編は各話23分弱で、本編は総計でも約4時間。濃密な物語を凝縮しており、見始めたら止まらない一気必至の作品となっている。

令和の時代を生きる主人公の常盤廻(めぐ/吉岡里帆)は、広告代理店で働く有能なアートディレクター。“辻褄合わせ”のトラブル対処なども得意だが恋には奥手で、好意を寄せる会社の後輩・広瀬航(西垣匠)にも思いを告げられない。そのうちに広瀬は会社の受付嬢と婚約し、一人で泣きながらヤケ酒をあおるような日々を過ごしていた廻だったが、ある日突然に世田谷のタイムパトロール基地へ呼び寄せられる。そこに居たのは、タイムパトロール隊員の井浦翔(かける/永山瑛太)を始め、オペレーターの天野りおん(伊藤万理華)、メカニック担当の八丁堀惣介(じろう・シソンヌ)、隊長の和井内秀峰(石田剛太)ら未来人たち。彼らに一時的な現地コーディネーターとしてサポートする特命を受けた廻は、翔と共に歴史を変える恐れがある違法タイムトラベラーを取り締まることになるが、実は二人はかつて時をかけて恋に落ちた恋人同士だった……。

ありえない状況に接した廻たち現代人は、驚きつつもタイムトラベルや未来人を早々に受け入れる。コメディだけに小難しい説明は最低限にすっ飛ばし、どんどん物語を進めていくテンポの良さが心地良い。前半第5話までは、未来から時を超えてやってきて、令和の時代で恋に生きようとする様々な恋人たちの物語が1話完結で描かれる。その恋人たちとは、令和の路上ミュージシャンに恋した未来人、未来から令和に駆け落ちしてきた先生と生徒、令和のホストと指名客の未来人、未来人の男性とコンビを組んだ女性コメディアンなど多種多彩。違法トラベルを行った未来人と、彼らに接した現代人は、共に記憶を消去され、未来人は連れ戻されてしまうのだが、違法タイムトラベラーたち個々の恋愛事情に心を動かされた廻と翔は、なんとか辻褄を合わせたり、彼らの悲恋を少しでも実らせようと奔走することになる。

 

後半は廻&翔の恋の逃避行と怒涛の伏線回収の痛快な“辻褄合わせ”

そして後半の第6話から最終話は物語が大きく変化。本来は出会ってはいけない廻と翔の二人が自分たちの禁断の恋を実らせようと恋の逃避行に走る、連続した長編ものとなる。現代と過去を行き来する複雑な構成ながら、それをわかりやすく見せつつ驚きの展開も交え、すべての謎が明かされていく。壮大な辻褄合わせと怒涛の伏線回収が行われ、一気に結末へとなだれ込む。多数のタイムトラベルコメディを手掛けてきた上田誠らしく、緻密なSF考証とコメディならではのゆるさを上手くミックスし、SFものの定番設定のタイムパラドックスを扱う物語を壮大な“辻褄合わせ”と称して、見事に痛快なラブコメディへと昇華させている。

監督は、MVやCMの監督として活躍中で、映画「もっと超越した所へ」やドラマ『忘却のサチコ』の監督も務めている山岸聖太と、ヨーロッパ企画に所属し、映画「ドロステのはてで僕らは」「リバー、流れないでよ」やドラマ『あいつが上手で下手が僕で』などの監督も務めている山口淳太。プロデューサーは、泣けるドラマとして話題になった『春になったら』でも組んでいるカンテレの岡光寛子とホリプロの白石裕菜。脚本の上田も含め、オリジナル作品に挑戦する気鋭のスタッフが集結している。

主人公を演じる吉岡里帆と永山瑛太は、テレビドラマ初共演ながら絶妙な掛け合いを見せ、吉岡は見事なコメディエンヌぶりとキュートさを発揮し、永山は新境地ともいえるアクの強い芝居に挑戦して笑わせる。共演陣にも多彩なキャストが揃い、タイムパトロール基地に居る未来人たちには、伊藤万理華、石田剛太、シソンヌのじろうらが扮し、超クセの強い芝居で異世界の住人らしさを醸し出す。他に西垣匠や田中真琴、夏子らもレギュラー出演し、各話のゲストには、泉澤祐希、吉村界人、清水くるみ、田村健太郎、今野浩喜、村上淳、森カンナ、津田寛治などの他、ミュージシャンの吉澤嘉代子や3時のヒロインの福田麻貴なども出演している。

 

レトロフューチャーなSFガジェットなど画面の隅々までこだわりが満載

本作は、物語以外にもこだわりが満載。各話のサブタイトルとそのロゴは、タイムトラベルや時間がテーマの映画を引用している。例えば第1話『アバウト・タイムパトロール』は「アバウト・タイム~愛おしい時間について~」(13)、第6話『バック・トゥ・ザ・エイティーズ』は「バック・トゥ・ザ・フューチャー」(85)、第8話『サマータイムパトロール・ブルース』は上田脚本で永山主演の「サマータイムマシン・ブルース」(05)など。一部はタイトルを借りただけのものもあるが、内容が即したものもあるため、引用した映画と見比べてみるのも面白い。また、エンドロールで本編の後日談が描かれるのも楽しく、余韻を高めると共に全編飽きさせない工夫がある。

衣装やSFガジェットにもユーモアがあり、ハイテクだけど懐かしさや親しみが感じられるレトロフューチャーテイスト。タイムマシンはキックボード型で、年代を入力するパネル部分は「バック・トゥ・ザ・フューチャー」のデロリアン風。たくさんの機械類があるタイムパトロール基地内のセットも、よく見ると使われているパーツ類はところどころにレトロな家電を使っていたり、記憶消去装置“フォゲッター”も理容室の椅子や歯科医院のライトを改造していて、あえてアナログっぽさを残している。未来人を送り返す基地内の回廊も、目の錯覚を利用して果てしなく続くように見せている。永山瑛太演じる未来人・翔は、アンテナのような髪型に、マニキュアとペディキュアもしていたりと、そのファッションも未来の流行を活かした設定。画面の隅々までこだわっており、見どころが満載だ。こちらの内容は、Blu-ray BOXとDVD BOXに収録されている映像特典のメイキング集でも触れているので、ぜひ堪能していただきたい。

4月26日にリリースされたBlu-ray BOXとDVD BOXには、オリジナルブックレットと映像特典ディスクが封入。一部前述もしているが、映像特典ディスクに収録されているのは約68分のメイキングの他、脚本の上田と監督の山岸によるコメンタリー付の第1話と各話のPR集。コメンタリーでは、タイムパトロール基地のセットが実は今年の3月に閉館した五反田TOCビル内に組まれていたこと、最終回で明かされる第1話の伏線について、未来人の髪型やメイクの裏話、小道具や画作りのこだわりについてなど、上田と山岸が貴重な作品秘話を明かしている。また、メイキングでは、昨年7月下旬のクランクインから9月下旬のクランクアップまでの現場の様子を見ることができ、吉岡と永山の現場コメントも収録。それらからは、吉岡と永山の信頼関係の深さや現場を楽しんでいる様子、永山が第1話で翔との記憶をなくしている廻と再会するシーンを最初の山場だと感じて、再会の嬉しさで挙動不審になっている姿を現場で試行錯誤しながら何度も演じ、キャラクターを作りこんでいる姿などが収められている。特に二人がクランクアップ時に現場スタッフに向けて語ったコメントは、このドラマへの出演を決めた際の深い想いを振り返ると共に、参加できた喜びや感慨に溢れており、このドラマの現場の充実ぶりが実感できるものとなっている。

 

文=天本伸一郎 制作=キネマ旬報社

 

『時をかけるな、恋人たち』

●4月26日(金)Blu-ray&DVD BOXリリース(レンタル同時)
Blu-ray&DVD BOXの詳細情報こちら

●Blu-ray BOX 価格:22,000円(税込)
【ディスク】<3枚組>
●DVD BOX 価格:17,600円(税込)
【ディスク】<4枚組>

【Blu-ray&DVD共通】
★映像特典★

・メイキング集、PR集
★オーディオ特典★
・オーディオコメンタリー(第1話 脚本・上田誠(ヨーロッパ企画)×監督・山岸聖太)
★封入特典★
・オリジナルブックレット(28P)

●2023年/日本/本編249分/映像特典74分

●脚本:上田誠(ヨーロッパ企画)
●監督:山岸聖太、山口淳太


●出演:吉岡里帆、永山瑛太、伊藤万理華、西垣匠、田中真琴、夏子、石田剛太、じろう(シソンヌ)

●発売元:カンテレ 販売元:ハピネット・メディアマーケティング
©カンテレ

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