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【SPECIAL TALK SESSION】講談社シネマクリエイターズラボとショートショート フィルムフェスティバル & アジアがショートフィルムの未来を切り拓く!


講談社110年余の「編集力」をショートフィルムで活かす!

受賞企画に1000万円をお支払い!—ショートショート フィルムフェスティバル & アジア2023で受賞者が発表された「講談社シネマクリエイターズラボ」。新たな映像クリエイターの発掘と支援を目的としたこのプロジェクトを立ち上げた講談社・野間省伸社長と、ショートショート フィルムフェスティバル & アジア別所哲也代表がショートフィルムの可能性とメディアの未来を語る。

左から、別所哲也(ショートショート フィルムフェスティバル & アジア代表)、野間省伸(講談社代表取締役社長)

心揺さぶるコンテンツをゲームに続き、ショートフィルムで

2023年に25回目を迎えたアジア最大の国際短編映画祭ショートショート フィルムフェスティバル & アジア(以下、SSFF)は、これまでさまざまな企業や団体とプロジェクトを立ち上げてきたが、昨年発表された「講談社シネマクリエイターズラボ」は国内最大手の老舗出版社である講談社がSSFFの協力のもと企画を公募。SSFF2023で発表された4名の受賞企画に講談社から各1000万円の資金が支払われ、同社の担当編集者と共に制作するショートフィルムがSSFF2024で公開される。

——「講談社シネマクリエイターズラボ」(以下、シネマCL)はどのような経緯から創設されたのですか?

野間 講談社は「おもしろくて、ためになる」出版物を出していくことを高祖父の代から社是としてきましたが、近年はそれを英語に置き換えた“Inspire Impossible Stories” をパーパスとして、世界中のユーザーにこころを揺さぶるコンテンツを届けることを大きな目標に掲げています。昨今はコンテンツもボーダーレスになっていますから、出版物にこだわらなくてもいいのではないか、では、ゲームから始まるコンテンツ展開もあり得るということで、2020年から「ゲームクリエイターズラボ」(以下、ゲームCL)というクリエイター支援プロジェクトを行ってきました。そこへ目をとめられたのが、鼻が良く利く別所先輩です(笑)。

別所 同じ大学の出身でもありますが(笑)、ゲームCLのことも存じ上げていました。野間さんからお話を伺うなかで、未来に向けた講談社のリブランディング、グローバルへの志向は、私たちが手がけてきたショートフィルムの映画祭と、国際性やクリエイターの開拓という点で目指す方向が同じであることがわかりまして、このプロジェクトをご一緒させていただくことになりました。



——昨今はYouTube をはじめ、比較的手軽に動画を撮影し配信、個人で発信することも可能になりましたが、映像プロジェクトをはじめた目的は?

野間 ゲームの分野ですが、先例のゲームCLでは応募数(累計3000以上、支援数24)も非常に多く、本当にさまざまな才能と出会うことができました。じつは、日本の「編集者」というのは稀な存在で、企画立案から編集全般、クリエイターの身の回りの世話までするような職業は他の国にはないらしい。その編集者の力によって、出版だけでなく、ゲームでも映画でも、クリエイターに寄り添ってサポートしていくことで化学変化を起こせると思っています。いろいろなジャンルの編集者がそれぞれに得意分野を持っていますから、編集者とクリエイターのいい出会いがあれば、「おもしろくて、ためになる」ものが必ず生まれるはずです。YouTube をはじめ、才能あるネットクリエイターの活躍が目覚ましいですが、制作だけでなくモチベーション維持や宣伝など制作以外すべてを自走できる方は少ない。我々は文学、漫画など多くの新人賞で新しい才能を集め発掘し、伸ばすことを昔からやってきましたから、110年を超えて培ってきた強みを活かして、シネマCLで企画を集め、選ばせていただく。そして“InspireImpossible Stories” なショートフィルムを作っていこうというわけです。


可能性を秘めた多様なジャンルの人々と巡り合いたい

——シネマCLは今後、SSFFにおいて企画マーケットのような存在となり、相互によい影響を及ぼしそうですね。

別所 映画祭としては、作品そのものを評価する機能に加えて、このようなプロジェクトを実施することによって、クリエイターのキャリア形成や、モチベーションアップにもつなげられると思います。第1回の応募数を見て、圧倒的な手応えを得ています。

——応募総数は1103。優秀賞には4名が選出されました。選考の基準やポイントは?

野間 海外からの応募が想定以上に多く、かといって外国人を優先するわけではなく、グローバルに通用する"Inspire Impossible Stories” という基準で選考し、結果的に海外からは2名が受賞しました。また、脚本家の喜安浩平さんはすでに実績のある方ですが、選考はあくまで企画内容がすべて。今回は「監督に挑戦したい」という彼の姿勢に共感しました。そして、新しいものは新しい人から生まれてきた、という経験が我々にもありますから、才能を一緒に開花させたいという点で大学生の瀬名亮さんが選ばれました。

——驚いたのは、1回目にして特別賞(200万円の資金提供)が追加されたことです。

野間 アニメの企画もぜひ選びたいと思い、急遽設けました。大学生の崎村宙央さんはずっと一人でアニメを作ってきた方だそうで、それだけでもうおもしろいじゃないですか。

別所 特別賞はシネマCLの、クリエイターを支援しようという姿勢、次世代を担う力に対するエールのようにも感じましたね。

——シネマCLの最終的な目標は?

野間 「夢は大きくアカデミー賞!」と、言っていますが、受賞者にはこれをきっかけにいろいろな経験を積んでもらいたいし、我々は映画祭に出品、受賞できるような作品を作っていきたい。この先もシネマCLを続けていき、可能性を秘めた多様なジャンルの方と巡り合い、お付き合いしていきたいと思います。確約はできませんが、我が社の原作の映画を監督していただくことや、ショートフィルムを基にした小説やゲームをつくることができるかもしれない。出版に限らず、さまざまなところから発信して、出口を増やしていく。シネマCLはその入り口、スタート地点のひとつです。

——最後に。コロナ禍で多くの映画祭は苦渋の思いをしましたが、オンライン上映・鑑賞が普及したことで、ショートフィルムは鑑賞機会も映画祭の認知度も増しました。とはいえ、3年ぶりに海外からの来日監督も迎えてのアワードセレモニーには、国際映画祭本来の姿を見られた気がします。

野間 アワードセレモニーは熱気がありましたね。人々が集まっている、その雰囲気が本当に良かったし、世界を身近に感じました。

別所 たしかに、コロナがちょっと強引に未来を連れてきて、オンライン開催は大きく飛躍しました。映画館で映画を観る体験はもちろん大切ですが、ウィンドウの在り方をもっと自由に、フラットに考えてみよう、と挑戦した結果です。越えなければならない障壁に立ち向かうことで、新しいやり方、光が見えてきた。そして、オンラインで便利にできるものはどんどん取り入れていく一方で、リアルに人が集うことの希少性、かけがえのなさも再発見できました。これからもますます映画祭とシネマCLは進化していって、ショートフィルムの未来を切り拓いていきます

 

取材・文=川村夕祈子 撮影=平岩享(「キネマ旬報」2023年10月号より転載)

のま・よしのぶ
1969年生まれ、東京都出身。慶應義塾大学卒業後、三菱銀行(現・三菱UFJ銀行)勤務を経て、講談社に入社。2011年より同社代表取締役社長を務める。

べっしょ・てつや
1965年生まれ、静岡県出身。慶應義塾大学在学中に俳優デビュー。90年、映画「クライシス2050」でハリウッド映画初出演。99年からSSFF & ASIAを主宰。


《第1回 講談社シネマクリエイターズラボ 受賞結果》

第1回は2022年8月1日から11月30日まで募集。応募総数1103本から優秀賞4企画に賞金1000万円が、また急遽設けられた特別賞1企画に200万円が支払われた。受賞者5名には担当編集者がつき、来年のショートショート フィルムフェスティバル & アジア 2024での上映と映画祭出品に向け現在鋭意制作中。

受賞者および受賞企画
マウリシオ・オサキ「 A Dream for My Son」
ベトナムを舞台に、移民問題や家族の絆を描くヒューマンドラマ。日本人の祖父を持つ日系ブラジル人3世であり、映像監督として活躍するオサキ監督がベトナムで撮影し、ニューヨーク大学の恩師によるロンドンでの編集作業が決定している、ワールドワイドなプロダクションとなる。

瀬名亮 「美食家あさちゃん」
かわいいものが大好きな女子高生が「もっとかわいくなりたい」と熱望する̶ルッキズムの問題や恐ろしさをテーマに、「Hulu U35クリエイターズチャレンジ」でグランプリを受賞した19歳の瀬名亮監督が、「怪物」ほか是枝裕和作品を数多く手掛けてきたAOI Pro.と制作。

喜安浩平 「私を描いて」
「桐島、部活やめるってよ」(12)で日本アカデミー賞優秀脚本賞を受賞した、脚本家で俳優の喜安浩平が映画監督に初挑戦。「才能に恵まれてしまった人間の苦悩」を、マンガと実写を融合させて描く。「踊る大捜査線」シリーズや「余命10年」などを手掛けたROBOTと制作。

マックス・ブラスティン「 Sage(賢人)」
イングランド在住、映像制作会社を共同創業し、作家としても活躍中。これまで多くの映画祭に出品され、受賞歴もある「A Magician(手品師)」「Sorceress(魔術師)」に続く、連作短編の最新作。「言葉のもつパワー」をテーマにワンテイクで撮影する。

〈特別賞〉崎村宙央 「Warmth in a Puddle」
手描きアニメーション、3DCG、実写撮影の技術を独学で習得。それらを組み合わせ独自の映像表現をする2001年生まれの映像作家で受賞歴多数。『蝉の声、風のてざわり』(19)はAppleのPR動画に採用。受賞作は自身のテーマである“生きづらさ”を表現するという。

選考総評:シネマクリエイターズラボ 神保純子

第1回には1103件(うち海外200件)もの応募をいただき、驚きました。
選考に際しては、応募者の居住地、年齢、性別などにかかわらず、企画本位で選ばせていただきました。重視したのは、講談社のパーパス“Inspire ImpossibleStories”を体現する“世界中の人々の心を揺り動かすものがたり”であるかどうかです。
受賞作は制作の翌年から国内外の映画祭に出品いたしますが、メディアミックスや、クリエイターさん自身のキャリアアップも我々がサポートしたいと考えているので、12月納品というスケジュールと予算での実現可能性はもちろんのこと、受賞のその後もお互いが幸せになれるかどうかも大切な観点として面談をさせていただきました。第2回は今回優秀賞に選出できなかったアニメ、CG、形式にとらわれない企画の受賞も実現したいと願っています。
“Impossible”とは「あり得ない!」という驚きを含んだ最上級の誉め言葉です。その語にふさわしい、私たちチームの人間も、観る人も驚くような新しさがあり、世界をInspireしてくれる企画をお待ちしています。

 


間口が広く、賞金も高額!

第2回講談社シネマクリエイターズラボ

●プロ、アマ、職種、誰でもウェルカム
第2 回も、第1 回と同様、フィルムメーカー、監督に限らず、プロデューサーやアニメーター、俳優のほか、ジャンルの異なるアーティスト、個人でなく制作会社等法人の応募も歓迎。
●企画は脚本、プロット、映像もOK
作品内容、企画意図さえしっかりわかれば、脚本、絵コンテ、ロングプロット、制作中の映像・動画データなどメディアを問わず(企画書は必須。想定キャスト、権利状況、予算見積もりなど詳細が記されていればなお可)。
●実写、アニメ、ジャンルも不問
実写、アニメーション、CGなどショートショート フィルムフェスティバル & アジアのオフィシャルコンペティションの規定である25分以内の尺であれば、長さ、形式やジャンルは問わない。
◎受賞企画には賞金1000万円が支払われ、講談社シネマクリエイターズラボが制作をサポート。完成した作品は翌年のSSFF & ASIAで上映。国内外の映画祭にエントリーしていく。

応募期間
募集中~ 2023年11月30日(木)23時59分
詳細は、講談社シネマクリエイターズラボ公式サイトをご覧ください。
▶公式サイトはこちら

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