ガッデム 阿修羅の映画専門家レビュー一覧

ガッデム 阿修羅

台湾で起きた無差別殺傷事件の報道記事に触発されて製作された社会派サスペンス映画。18 歳のジャン・ウェンが改造銃で乱射事件を起こした。その動機について周囲の誰も見当がつかない。現場に居合わせた記者のメイ・ジュンズーは事件の真相を突き止めるべく動き出す。ジャン・ウェンと共に漫画を創作していた親友シュー・ユエンシン、メイが取材していた老朽化アパートの住人リン・ジャーリン、彼女とオンラインゲームでつながる市役所のフー・ジーセン、彼と結婚を控えながらも広告会社で残業続きのビータ。人生の悩みや不満を抱える 6 人の運命が交錯する……。さまざまな貌を見せる登場人物、隠喩に富んだ漫画やゲームの虚構の世界、刻々と転移する物語に目が離せない。2021 年金馬奨でリン・ジャーリンを演じたワン・ユーシュエンが最優秀助演女優賞受賞、2022 年台北電影奨で、脚本賞、音楽賞、最優秀助演女優賞の三冠を達成した。
  • 米文学・文化研究

    冨塚亮平

    スマホ撮影、ネットゲーム、ウェブトゥーン、ZOOMといった最新メディアの要素をこれでもかというほど散りばめつつ、あたかもゲームを再起動するような仕掛けをも用いることで、新たな映像文化からの影響を物語のレベルでも昇華しようとする野心作であることは確か。ただ、結果としてそのひねりが効果を上げているとは思えず。「怪物」にも通じる律儀で説明的な脚本は近年の流行に沿っているとは言えるのかもしれないが、後半は説教臭い教訓を伝えるパズルとしてしか観られず。

  • 日本未公開映画上映・配給団体Gucchi's Free School主宰

    降矢聡

    なぜ青年は無差別殺人事件を起こしたのか。いわゆる現代の若者の捉えきれない心の奥が、本作最大の肝である(といっても真新しい観点でもないが)「もしあのとき違う選択をしていたら」というifの世界を描くことで考察されるのだが、そのifの結末は、作り手の匙加減でどのようにもなり得るだろうと思えて、私は乗れなかった。ifの世界を描くことで、人の心のわからなさを描くはずが、逆に人の心がとてもわかりやすいものとして描かれてしまっているように思う。

  • 文筆業

    八幡橙

    無差別殺傷事件に幕を開け、年齢や性別がバラバラの複数の男女が交錯し、ネット漫画やオンラインゲーム、援助交際といった現代的な要素を散りばめて描かれる、「青春弑恋」にも通じる台湾群像劇。とはいえ同じ人物たちの別の道筋の物語を懐かしのドラマ『if もしも』方式で提示する本作は、いつ誰が被害者になっても加害者になってもおかしくない都会が孕む危うさや混沌を確かな人物造形の内に描いていて、より深く響いた。むしろ、こちらこそ現代の「恐怖分子」と呼びたい佳作。

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