ちひろさんの映画専門家レビュー一覧

ちひろさん

週刊漫画誌『Eleganceイブ』(秋田書店刊)で連載された同名の漫画を原作に、主演・有村架純&監督・今泉力哉で映画化。元風俗嬢の主人公・ちひろが、とある海辺の町の小さなお弁当屋さんで働きながら、心に傷や悩みを抱える人々と交流し、彼女の言葉や行動がそれぞれの生き方に影響を与えていく物語。とにかくマイペースで辛口の「ちひろさん」が、悩みを抱えて生きる現代の人びとに小さな生きる処方箋を与えてくれる。共演は、弁当屋の主人の妻・多恵に風吹ジュン、風俗店の元店長にリリー・ フランキーの他、若葉竜也、豊嶋花など。くるり・岸田繁が主題歌を書き下し、「かもめ食堂」「深夜食堂」などの飯島奈美がフードスタイリストを務めた。
  • 映画・音楽ジャーナリスト

    宇野維正

    マグダラのマリアのような、あるいは菩薩のような、主人公ちひろの人物造形に唸る。ある意味、男性の理想や幻想を具現化した現実味のない存在でありながら、やがてそれが反転してリアリティを帯びていく。実際、彼女のような心の空洞を抱えた女性に会ったことがあるような気さえしてくる。それもこれも、有村架純が演じているからこそで、今泉力哉の抑制された演出もその魔法に平伏しているかのようだ。願わくは、今後もその傑出した才能に相応しい出演作に出てくれますように。

  • 映画評論家

    北川れい子

    原作漫画の映画化だからなのだろうが、今泉作品の特徴(!)である時間潰しとしか思えない無意味なお喋りや、無意味な行動は今回ほとんどない。他人に何も求めず、何も期待しない独り上手なちひろさん。でもときにはさりげなくお節介を焼き、子どもを相手に本気で喧嘩をしたり。そんなちひろさんを磁石に見立てた群像劇で、一見、ドライに振る舞う有村架純の演技が逆に余韻を残す。キレイごとではない主人公ということで、安藤桃子監督「0・5ミリ」の安藤サクラを連想したりも。

  • 映画文筆系フリーライター。退役映写技師

    千浦僚

    甲子園出場校の履歴みたいに何年ぶり何回目という頻度で私がこの欄につい書くのが“有村架純はいまの労働者階級のマドンナ”というひと言だが、本作を観てやはりまた強くそう思う。その生活感と一体の魅力に本作のちひろのキャラがプラスされて“保守的家庭像への批判者たるヒロイン”とも感じる。原作漫画の生臭さや剣呑な部分(ちひろの誘惑上手逸話や、随所の暴力性)はセーブしたか、とも思うが、澤井香織と今泉力哉による脚本、今泉演出はツボを押さえて語りきった。

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