とら男の映画専門家レビュー一覧

とら男

1992年に実際に起きた「金沢女性スイミングコーチ殺人事件」の担当だった元刑事、西村虎男が本人役で主演し、フィクションとドキュメンタリーの二重構造で、2007年に時効を迎えてしまったその未解決事件に再び挑む、異色のミステリー映画。脚本・監督の村山和也はCM・MVで活躍し、短編映画「堕ちる」(2017年)を発表後、本作で初の長編映画デビューを飾った。監督自身が金沢出身で、小さい頃に野球をしていた遊び場が殺害現場になったことから、「虎男さんの無念さを映画で表現したかった」と、事件を再捜査するような感覚で作り上げたという。犯人の目星をつけながらも、逮捕に至らなかった刑事歴30数年の執念の捜査は終わらない。眼光鋭いとら男の魂の彷徨に共鳴する大学生・梶かや子を山浦未陽監督の「もぐら」に主演した加藤才紀子が演じ、不思議なバディ映画ともなっている。
  • 脚本家、映画監督

    井上淳一

    実在の未解決事件をそれを追った元刑事主演で映画にするなんて発想、どこから生まれるのか。素人とプロ俳優の融合も演出力がなければ出来ない。これで肝心のドラマがもう少しちゃんとしてたら。相棒となる女子大生が再捜査する動機が弱いのはいいとして、捜査で行き詰まってなお続ける執着が分からない。迷宮入りの理由も不明で、再捜査の目的が分からない。あの犯人なら逮捕出来たのでは。警察の闇なら闇が垣間見えないと。それでも観るべきだと思う。刺激的過ぎた。だから勿体ない。

  • 日本経済新聞編集委員

    古賀重樹

    人間はなんで生きるのか? 警察を退官したあとも、未解決事件への悔恨を抱き続ける男の姿を見ながら、そのことを考えずにはいられなかった。使命感なんてフィクションにすぎないかもしれないけれど、人はフィクションなしには生きられない。それも現実だ。このバディムービーが事件の真相に迫っているとも、十分な証拠がそろったとも言い難いが、真相解明へと突き動かされる一人の男の執念がただならぬものだということは伝わる。この映画には確かに人間が映っている。

  • 映画評論家

    服部香穂里

    斬新なバディものに挑む意欲は感じるが、女子大生がメタセコイアに惹かれる理由も、それをきっかけに元刑事を焚きつけ警察ごっこに没入する動機も弱く、再捜査に臨むはしゃぎ気味の振る舞いが不謹慎に映る。“生きた化石”のごとき両者の共鳴のようなものも見えづらく、衝撃の事実の発覚でコンビが決裂する修羅場も、別れた相棒の熱意を知り元刑事が突き動かされる瞬間も、イマイチ情感に乏しい。実際の未解決事件に新たな切り口で踏み込むフィクションの構成に、一考の余地あり。

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