護られなかった者たちへの映画専門家レビュー一覧

護られなかった者たちへ

中山七里の新聞連載小説を瀬々敬久監督が映画化した社会派ミステリー。東日本大震災から10年目の仙台で、手足を縛られて餓死するという連続殺人事件が発生。被害者はみな人格者だったとの評判で犯人の動機すらつかめない。刑事の苫篠はある男に目を付ける。連続殺人事件の捜査線上に浮かび上がる主人公・利根を演じるのは、「8年越しの花嫁 奇跡の実話」以来の瀬々組となる佐藤健。過去に起こした事件で服役し、出所したばかりだが、なにかを思い詰めてている。そんな利根を追い詰める刑事・笘篠を演じるのは佐藤健と10年ぶりのタッグを組む阿部寛。緻密な捜査を重ねながらも決定的な証拠がつかめないまま、第三の事件の予感に焦りを感じる。なぜ、被害者は無残な殺され方をされねばならなかったのか。利根の過去には何があったのか。さまざまな想いが交錯する中、やがて事件の裏に隠された、切なくも衝撃の真実が明らかになっていく……。
  • 脚本家、映画監督

    井上淳一

    原作を群像劇に脚色したのは正解だったろうか。結果、誰にも感情移入できず、最近の瀬々作品と同じく平均点のチョイ上いく出来に。震災が映画感を出すための道具にしか見えない。震災のエンタメ消費。生活保護問題、本当の敵は国家でしょ。それでもやらないよりやった方がいいのか。声を上げろと犯人はアジるが、映画を観た人は衆院選で誰に入れるのだろう。震災で大切な人を護れなかった人はこの映画をどう観るのだろう。「雷魚」の頃の瀬々さんは今の瀬々さんをどう見るのだろう。

  • 日本経済新聞編集委員

    古賀重樹

    瀬々敬久作品の中でおそらく最も社会派的なミステリー。生活保護の支給にあたる福祉事務所職員の連続殺人事件から、東日本大震災後の貧困問題に迫る。途中であらかた察しがつく犯人探しよりも、被害者である福祉事務所職員の非常時でのもう一つの顔が明らかになっていく過程にスリルがある。普段は善良な市民が、極限状況の中で組織の歯車として人間性を擦り減らす。そこに今の日本社会の実相が映る。瀬々の力技に敬意を表したいが、ちょっと材料を盛り込みすぎで、せわしない。

1 - 2件表示/全2件

今日は映画何の日?

注目記事