映倫 次世代への映画推薦委員会推薦作品 —「白日青春 -生きてこそ-」

父として生きられなかった男と父を、亡くした少年との出会い

長年、タクシー運転手をしてきたバクヤッ(陳白日)。難民として生きる外国人たちに差別的な言葉を吐いたりもするが、彼自身もかつて中国大陸から香港へと命がけで海を渡ってきた人物だ。しかし、その後、様々な事情が重なり、警察官である息子とも疎遠になっている。不機嫌な顔で酒浸りの日々を送る姿は、人生を放棄してしまっているようにも見える。そんな彼が、交通事故で父を亡くしたパキスタン人の少年と出会ったことで、誰かのためにできることがまだあると気付く。

香港の名優アンソニー・ウォンが葛藤を内に秘めて生きてきたバクヤッを貫祿たっぷりに演じている。

難民とは「紛争や人権侵害などから自分の命を守るためにやむを得ず母国を離れ、逃げざるを得ない人たち」のことを指す。国連難民高等弁務官事務所によれば、その数は2023年5月末日で推定1億1000万人。香港は長年、他国への亡命を求める人たちの中継地として機能してきたということだが、近年は基準が厳格化され、申請者が難民認定を受けることが難しくなっているという。認定申請中のため働くことが禁じられ、常に警察の目を恐れるハッサンの父の姿は、先進国の中でも圧倒的に低い難民認定率で知られる日本で生きる難民(外国人)たちの姿とも重なる。

自身が中華系マレーシア人4世で、映画を学ぶために香港にやってきたラウ・コックルイ監督は、難民たちの置かれている現実をていねいに描きつつ、この作品を「父の愛を渇望する息子と、息子を理解しようともがく父親の物語」として完成させた。「自分には関係ない」と思っていた人に手を差し伸べることができたら、世界は少しだけ住みやすくなるかもしれない。そんな希望が込められているように感じた。


文=佐藤結 制作=キネマ旬報社

(「キネマ旬報」2024年2月号より転載)

「白日青春 -生きてこそ-」

【あらすじ】
家族と共にパキスタンから香港にやってきた難民男性が、自分のせいで起きた交通事故で死んでしまったことを知ったタクシー運転手バクヤッ。男性の家を訪ねると妻ファティマから息子ハッサンの行方を探してほしいと頼まれる。バクヤッはギャングの仲間となって警察に追われていたハッサンを発見し、なんとか助けようとするのだが……。

【STAFF & CAST】
監督:ラウ・コックルイ
出演:アンソニー・ウォン、サハル・ザマン、エンディ・チョウほか
配給:武蔵野エンタテインメント
香港・シンガポール/2022年/111分/PG12
2024年1月26日(金)より全国にて順次公開

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