映画「レディ加賀」―“ピンチに負けない底力”を力強いタップダンスのリズムに乗せて描く

泉質の異なる三つの温泉地や、城下町、漁港、宿場町など、加賀百万石の美意識を継いだ六つの地域で構成される石川県の加賀温泉郷。同地区も能登半島地震により大きな被害を被っており、一日も早い復旧と復興を願うばかりだが、新作映画「レディ加賀」は加賀温泉が舞台で、地元の人々に根付く“ピンチに負けない底力”を描いており、石川県の方々にエールを贈るような作品となっている。

 

理屈抜きで心を揺さぶられる俳優陣実演のタップダンスシーン

2月2日に石川県で先行公開され、2月9日から全国公開される映画「レディ加賀」は、加賀温泉郷を盛り上げるために旅館の女将たちによって10年前に結成された、実在するプロモーションチーム“レディー・カガ”に着想を得て企画されたオリジナルストーリー。

加賀温泉にある老舗旅館「ひぐち」の一人娘の樋口由香(小芝風花)は、小学校の時に見たタップダンスに魅了され、上京してタップダンサーを目指したものの、芽が出ずに苦しんでいた。そんな折に、母親・春美(檀れい)が病に倒れたとの知らせを受けて帰郷。実家に戻ると母親は元気そうに働いていたが、これを機に由香は夢を諦め、女将修行を始める。何をやっても不器用な由香は女将修行に大苦戦するが、持ち前の明るさとガッツで奮闘する。そんな中、観光プランナー・花澤譲治(森崎ウィン)の発案で、加賀温泉を盛り上げるためのプロジェクトが発足し、由香は友人の石崎あゆみ(松田るか)ら新米女将たちを集めてタップダンスのイベントを開催することとなるが……。

一度はタップダンサーの夢を諦めたかに思えた主人公が、故郷の女将修業の中で“ピンチに負けない底力”と“どんな時も心を込めてお客様におもてなしする”ことを学んで成長・再生していく姿を、笑いと感動の中で綴る本作。一生懸命打ち込んだことに無駄などないし、何度でも新たな挑戦ができることを教えてくれる。そのハートフルでポジティブな物語と共に大きな魅力となるのは、加賀温泉と、俳優たちが実演するタップダンス。特にクライマックスで、一丸となった新米女将たちが艶やかな着物姿で舞い踊る“和風タップダンス”は、その新鮮さと華麗さに目を奪われる。俳優たちへのタップダンスの指導や振付を行ったのは、劇中にも指導者役で出演しているHideboHこと火口秀幸。北野武監督の「座頭市」での振付・出演でも注目を浴びた、日本が誇るトップタップダンサーだ。タップシューズが奏でる力強く心地良いリズムには、理屈抜きで心を揺さぶられるものがあり、誰もが惹きつけられることだろう。


数々の危機に力をあわせて乗り越えてきた加賀温泉を描く

主人公の樋口由香を演じるのは、2014年の実写映画「魔女の宅急便」のキキ役で初主演し、現在はフジテレビ系の『大奥』とNHK-BSプレミアムの『あきない世傳 金と銀』という2本の連ドラで主演を務めるなど大活躍中の小芝風花。元フィギュアスケーターでもある小柴がその身体能力を活かし、劇中の随所でタップダンスを実演してみせている。

そして、小柴演じる主人公の由香と共にタップダンスチームを結成する新米女将たちに松田るか、中村静香、八木アリサ、奈月セナ、小野木里奈、水島麻理奈、由香の同級生で加賀温泉のPRに尽力する加賀市職員に青木瞭がそれぞれ扮し、旬の若手俳優たちが揃う。さらに、タップダンスイベントで町おこしを企画する天才観光プランナーを森崎ウィン、由香の母親で老舗旅館「ひぐち」の女将を檀れいが演じるほか、篠井英介、佐藤藍子らも共演する。

監督は、「リトル・マエストラ」(2012)「カノン」(2016)「レッドシューズ」(2023)などでも、ひたむきに生きようとする女性たちの温かい人間ドラマを手掛けてきた雑賀俊朗。同監督は「リトル・マエストラ」「カノン」でも石川県を舞台にしており、その土地ならではの魅力を知り尽くした監督ならではの美しい風景や名所・名物も劇中にうまく取り入れ、ご当地映画としても楽しめるようになっている。

今回の公開時期は偶然だが、映画を観ていて、被災者の方々へ思いを馳せずにいられない。劇中で、加賀温泉には過去に3回危機があったが、いずれも力をあわせて乗り越えてきたと語られ、次々と見舞われる様々なトラブルを乗り越えていく姿が描かれる。3回の危機とは、東日本大震災とコロナショック、そして2007年にもあった能登半島地震だ。軽率に言えることではないし簡単なことではないだろうが、4度目の危機となる2度目の能登半島地震もきっと乗り越えてくれるはずだと、願うような気持ちで映画を観た。北陸新幹線が延伸し、3月16日には新駅・加賀温泉駅の開業も予定されている。その開業と共に、この映画が少しでも同地区に明るい希望や活力を与えることをこの映画のすべての関係者が望んでいることだろう。タップダンスのリズムの力強さにもエールを感じる、まさにいま観て欲しいポジティブなエンタメ映画となっている。

 

文=天本伸一郎 制作=キネマ旬報社

 


「レディ加賀」
2月2日(金)石川県先行公開
2月9日(金)より新宿ピカデリーほか全国にて

2024年/日本/108分  

監督・雑賀俊朗
脚本・渡辺典子、雑賀俊朗 

主題歌:眉村ちあき「バケモン」(トイズファクトリー)

出演:小芝風花、松田るか、青木瞭、中村静香、八木アリサ、奈月セナ、小野木里奈、水島麻理奈 / 佐藤藍子、篠井英介、森崎ウィン / 檀れい

配給:アーク エンタテインメント
©映画「レディ加賀」製作委員会
公式HP:https://ladykaga-movie.com/

 

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