一本のショートムービーが生み出した家族の物語

家族はひとつの世界だ。その中にいる限り、ほとんどのことは“普通”として受けとめられ、穏やかな日常をおくることができる。しかし、足を一歩外へと踏み出すと、そこには他者と共に生きる、より広い世界が広がっている。家の中の“普通”は一気に“特別”なものへと姿を変え、他者よりも自分自身がそのことにとらわれてしまうことがある。

2015年の「世界ダウン症の日」に合わせてアップされた一本のショートムービーをきっかけに生まれた「弟は僕のヒーロー」は、ダウン症の弟を持つ高校生が、そのことを受け入れるまでを描く成長譚だ。弟ジョヴァンニを主人公にしたショートムービーを作ったイタリアの高校生ジャコモ・マッツァリオールによる同名の青春小説を原作としている。

 

主人公のジャックは姉と妹に挾まれて育ち、ようやく生まれた弟ジョーとの対面を家族の誰よりも歓迎する。そんな彼に母カティアはジョーが「他の人とは別のテンポを持っている」と話す。両親は医師からダウン症の子どもはさまざまな病気にかかる確率が高いと説明されるが、温かく見守る家族たちの中で、ジョーは元気に毎日を過ごす。むしろ、“問題”となるのはジャックの方で、一目惚れしたマリアンナに“弟は死んだ”と言ってしまったために嘘を重ね、それが予想もしなかった事件を巻き起こす。

今作では、一部の大人を除き、ダウン症であるジョーへの偏見を感じさせる人物は登場せず、「一番好きな人に偏見を持たれるかもしれない」と恐れるジャックの心の変化に集中する。それはまるで観客に「変わらなければならないのは周りではなく、あなた自身では?」と問いかけているかのようだ。PG12作品ではあるが、ぜひ、親子で劇場を訪れ、映画について語り合ってみてほしい。


文=佐藤結 制作=キネマ旬報社

(「キネマ旬報」2024年1月号より転載)

「弟は僕のヒーロー」

【あらすじ】
北イタリアの小さな村に住むジャック。弟ジョーの誕生を喜ぶ彼に対して母はジョーがダウン症であると伝える。ジャックは人とは違うジョーを“スーパーヒーロー”と呼んで仲よく成長するが、徐々に彼の存在を負担に思うようになる。やがて、都会の高校に進学したジャックは、好意を持つようになった同級生のアリアンナに弟の存在を伝えることができず……。

【STAFF & CAST】
監督:ステファノ・チパーニ
出演:アレッサンドロ・ガスマン、イザベラ・ラゴネーゼ、ロッシ・デ・パルマほか
配給:ミモザフィルムズ
イタリア、スペイン/2019年/102分/区分PG12
2024年1月12日(金)より全国にて順次公開

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