「エマニエル夫人4Kレストア版」—〝エマニエル特需〟の頃の〝淫夢〟再びも一興か

主演シルビア・クリステルが60歳の若さで死して早11年。〝エマニエル伝説〞はもはや大過去と思いきや、再公開とはまた良きかな。エロスは根強い。ジュスト・ジャカンの低予算フレンチ・エロス作を、日本で大化けさせたのが、今は亡きヘラルド映画であった。カメラマン出身監督だけに被写体をフォトジェニックに撮る術には長けた。ポルノは観たいけど……、当時の主に20〜40代女性層に対し、文芸もの等に特化した上品な一流館・みゆき座にかけ、ファッショナブルに売るイメージ戦略(籐椅子に座り艶然と微笑むクリステルのポスターもその一環)の完勝なり。ほぼ無名の彼女を欧州の美しい女優さん=憧れの対象とし、様々なエクスキューズを施し、堂々と単身&女性同士で鑑賞することを可能にした。この映画を観ることが時代の先端、との美しき誤解をまんまと植え付けた。タイ・バンコクで奔放な性行為に目覚めてゆく外交官夫人のエロス行脚なんだけどね。当時、大学留年中の鬱屈した身で、イソイソと観に行ったら女性観客が約7割を占め、当方の肩身のほうが狭かったことを昨日のように思い出す。

安く輸入したこの作品が十倍、百倍の興収をたたき出し、のちにこの業界に入って、その頃のヘラルドの試写室はフランス製椅子を設えた配給会社随一の豪奢な代物で『エマニエルの恩恵で作った〝エマニエル試写室〞と呼ばれている』と知った。社会現象化し、その余波か、全国各地の歓楽街で『エマニエル』の名を冠した店が激増したほど。この鉱脈を映画界が見逃すわけもなくシリーズ化! クリステル以外の女優も起用され、21世紀まで続いた。そんな〝エマニエル特需〞は、クリステルを一躍人気女優にし、ジャカン監督をエロスのカリスマに押し上げたが、最後まで〝エマニエルの〜〞の冠を取ることはできなかった。21世紀に入るとクリステルは、10代時からのヘビーな喫煙が祟ったのか肺ガンを患い、長く闘病し、12年6月に脳卒中で倒れ、秋には帰らぬ人に。第一線での活躍はほぼ10年……短くも美しく淫らに燃え、であった。

この「エマニエル夫人」をレア・セドゥーでリメークという報に、年甲斐もなく色めき立ったが、近年ドリュー・バリモアで「バーバレラ」(68)をリメークする話もいつしか頓挫……話半分に聞いておこう。クリステル〝13回忌〞も近い。再びエマニエルの〝淫夢〞をまどろむのも一興か。なお「続エマニエル夫人」(75)「さよならエマニエル夫人」(77)も再公開される。

 


文=秋本鉄次 制作=キネマ旬報社
(「キネマ旬報」2024年1月号より転載)

 

 


「エマニエル夫人4Kレストア版」
1974年/フランス/93分
・監督:ジュスト・ジャカン
・出演:シルヴィア・クリステル、アラン・キュニー、クリスティーヌ・ボワッソン
©1974 STUDIOCANAL. Tous droits réservés.

「続エマニエル夫人デジタルリマスター版」
・1975年/フランス/ 91分
・監督:フランシス・ジャコベッティ
・出演:シルヴィア・クリステル、ウンベルト・オルシーニ
©1975 STUDIOCANAL. Tous droits réservés.

「さよならエマニエル夫人デジタルリマスター版」
・1977年/フランス/ 98分
・監督:フランシス・ルテリオ
・出演:シルヴィア・クリステル、ウンベルト・オルシーニ
©1977 STUDIOCANAL. Tous droits réservés.

・配給:ファインフィルムズ(全作品)
◎12月29日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、シネ・リーブル池袋ほか全国にて

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