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映画「コンクリート・ユートピア」気鋭監督オム・テファ インタビュー エンタテインメント大作から問い掛ける、 人として守るべき道とは?

パク・チャヌク監督の助監督を務めてきた、気鋭オム・テファ監督の最新作「コンクリート・ユートピア」。主演を務めるイ・ビョンホン、パク・ソジュン、パク・ボヨンら、錚々たるスター陣を巧みに演出し、青龍映画賞や大鐘賞などの映画賞に輝いた2023年の韓国の話題作が、2024年1月5日より全国で公開される。韓国ドラマ年鑑『韓国テレビドラマコレクション2024』(2024年1月15日発売)で紹介するオム・テファ監督の独占インタビューを、いち早くキネマ旬報WEBでお届けしよう。

 

舞台であるマンションは、韓国の現代社会の縮図

―「コンクリート・ユートピア」では、巨大災害後、ソウルに唯一残ったマンションで暮らす人々の葛藤が描かれます。ただ、これまで作られてきたディザスター(災難)ムービーとはかなり違う印象を受けました。

「災害が起きた後の世界を描く終末ものに近いと思います。生き残った人々の世界を通して、現在の韓国を象徴的に見せたいと思いながら作りました」

―住民たちに選ばれて臨時住民代表となるヨンタク役のイ・ビョンホンさんがすばらしい演技を見せています。また、彼を補佐する公務員ミンソン役にドラマ『梨泰院クラス』(20)や「マーベルズ」(23)のパク・ソジュンさん、彼の妻ミョンファに「君の結婚式」(18)のパク・ボヨンさんを起用しました。

「ヨンタク役には、小市民的な姿から独裁者のような姿までという大きな変化を2時間のなかで表現できる俳優が必要でした。演技がとてもうまいだけでなく、この大きな予算の映画への投資も可能にするようなスターパワーも不可欠と考えた時に頭に浮かぶ俳優はイ・ビョンホンさんしかいませんでした。パク・ソジュンさんは、颯爽としてカリスマ性のある役もたくさん演じていますが、平凡な役を演じているときのほうが、むしろ魅力的な面があるのではないかと思い、平凡な公務員役を演じてもらいました。パク・ボヨンさんの場合は、普段あまり見せていない面が見たいと思って起用しました」

―厳しい状況のなかで徐々に変貌してく住民たちの群像劇としても見応えがあります。撮影はどのように進めていったのでしょうか。

「全体を順番に撮影することはできませんが、俳優たちになるべく楽に演じてもらうため、できるだけ努力しました。たとえば、映画の前半に登場する住民会議の場ではそれぞれの人物がある決断をしますが、その後、3、4ヵ月撮影が進んだ後、彼ら彼女らの意思を改めて表明する別のシーンを撮ることになりました。そのとき、俳優たちに『このマンションの住民として生きてきて、考えは変わりましたか?』と聞いてみました。ある人たちは変わらないと言い、ある人は変わったと言ったので、『それなら現場では本人が思うように演じてください』と言って撮影しました」


エンタメ性の高いパニックスリラーを通じて伝えたかったこと

―今作の制作中に新型コロナウイルス感染症が世界的に広まりました。「コンクリート・ユートピア」に登場する人々が外の世界の人々を排除してなんとか生き残ろうとする姿は、人との接触を避けることが推奨され、家に閉じこもって病気を避けようとした日々を思い出させます。

「この映画の撮影が始まった頃に新型コロナウイルスの感染が世界的に拡大しました。撮影をしながら、当時、起きていたような事態が進むと、韓国だけでなく、全世界が、この映画のシナリオで描かれているような状態になりえるのではと思いました。「コンクリート・ユートピア」は、韓国のマンションのなかを顕微鏡で眺めるような、とても韓国的な内容ですが、突き詰めていくと、生存したいという欲望と人間の尊厳が衝突するストーリーです。自分や家族が生存するため、他人に対してどこまで害を及ぼすことができるのか、『あなたならどんな選択をしますか?』と問いかける映画にしたかったのです。すべての人物に感情移入できる余地を残し、どの人物の視点で見るかによって映画を見終わった時に出す答えが違うとよいなと思いながら作りました。今起きている戦争や難民の問題として受け止めた観客もいたようです」

 

(プロフィール)
オム・テファ:1981年生まれ。韓国映画アカデミー(KAFA)出身。2002年ドキュメンタリー「선희야, 노올자!」で共同監督を務める。短編「숲」(12)、オム・テグ主演の「イントゥギ」(13)で才能が注目され、カン・ドンウォン主演の「隠された時間」(16)で商業デビューを飾る。商業映画第2作目となる「コンクリート・ユートピア」が、第44回青龍映画賞で3冠、第49回大鐘賞では作品賞をはじめ、6冠に輝くなど、最も勢いのある新鋭監督。


取材・文=佐藤結 制作=キネマ旬報社
『韓国テレビドラマコレクション2024』(2024年1月15日発売)より転載


 


「コンクリート・ユートピア」
【あらすじ
大災害後、韓国・ソウルで唯一残ったマンションを舞台にしたパニックスリラー。韓国社会の縮図ともいえるマンションに生き残った住人の人間模様から、この時代の“人道”について問い掛けている。世界各地で起こった地盤隆起による大災害に見舞われたソウル。唯一崩落を逃れたファングンアパートに生存者たちが押し寄せたことで、物騒な事件が発生する。危機感を覚えた住人は、外部からマンションを遮断し、防犯隊を作って統制することに。902号室のヨンタク(イ・ビョンホン)が臨時代表に選ばれ、602号室のミンソン(パク・ソジュン)は防犯隊長に任命される。しかたなく加わったミンソンだったが、行動力を発揮し、住民を導くヨンタクに次第に心服していく。そんな夫の姿を心配する妻のミョンファ(パク・ボヨン)は、ヨンタクに不信感を募らせていた。ヨンタクの支配力が強まったとき、予期せぬ出来事が起こってしまう。

【作品データ】
콘크리트 유토피아/Concrete Utopia
2023年・韓国・カラー・2時間10分
監督 オム・テファ
脚本 イ・シンジ、オム・テファ
出演 イ・ビョンホン、パク・ソジュン、パク・ボヨン、キム・ソニョン、パク・ジフ、キム・ドユン
配給 クロックワークス
2024年1月5日より全国公開
公式オフィシャルサイトはこちら

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