ちょっとした細部の妙味――先日のことだ。再放送されていた往年の人気TVドラマ、山田太一脚本、木下惠介アワーの名作『二人の世界』(70〜71)を再見していたら、ある回で栗原小巻扮するヒロインの実家の部屋にゴダールの映画「軽蔑」のポスターが貼ってあるのに改めて気付き、目を奪われた。

一応ちゃんと説明しておくと「軽蔑」とはジャン=リュック・ゴダール監督の長篇6作目、1963年(日本では翌64年)に公開されたフランス・イタリアの合作映画だ。「ゴダール作品は難解」というイメージがあるけれどもかような国民的ドラマの〝小道具〞に使われるほどのポピュラリティを備えていたのだ。またこの「軽蔑」の場合、主演がフランスを代表するスター、ブリジット・バルドーだったのも大きい。金髪で完璧なスタイルのセックスシンボルにしてファッションアイコンゆえに、浸透度がより高かったのである。

彼女は、劇作家(ミシェル・ピコリ)の夫に「私はあなたを軽蔑する。もう愛はないの」と告白、その唐突な心変わりと仕返しが描かれてゆく。そこには傲慢な米国人プロデューサー(ジャック・パランス)が絡んでいて、夫は大作映画の脚本のリライト要請に悩んでいた。原作はイタリアの大家アルベルト・モラヴィアなのだが、ゴダールは当時の妻、女優アンナ・カリーナとの関係を生々しく反映させており、さらには創造性を捨てて、ハリウッド的な商業主義に与する世の趨勢に本作を通じて異を唱えてもいるのだった。

しかし、そもそもバルドーが主役の時点で商業映画になってしまう。ではゴダールはどうしたか? 矛盾を引き受けながら「二重性の戦略」を取った。要はスターの輝きはしっかり捉えつつ彼女の役柄が放つ〝軽蔑の視線〞によって映画自体をところどころ、異化してみせたのだ。そして劇中撮影される大作(ギリシャ神話『オデュッセイア』)とこの夫婦の物語をクロスさせ、監督には複雑なキャリアを持つ巨匠フリッツ・ラングを本人役で起用、下に付くスタッフ役にゴダールも交ざってリアリティラインを崩そうと試みている。

無論、他のゴダール作品同様、色彩のコンポジションが映画を感覚的に導いていき、夫婦の〝心の漣さざなみ〞を表現するジョルジュ・ドルリューの甘美な音楽も素晴らしい。ちなみに1970年9月21日に「軽蔑」は、『二人の世界』と同じTBS系の『月曜ロードショー』で初放映され、後者は同年12月1日からスタート。例のポスターは、葛藤する夫婦繋がりで選ばれたのかも知れぬ。


文=轟夕起夫 制作=キネマ旬報社
(「キネマ旬報」2023年11月号より転載)


「軽蔑 60周年4Kレストア版」

1963年/フランス/ 104分
監督:ジャン=リュック・ゴダール
出演:ブリジット・バルドー、ミシェル・ピコリ、ジャック・パランス、ジョルジア・モール、フリッツ・ラング
配給:ファインフィルムズ
◎11月3日(金・祝)よりヒューマントラストシネマ有楽町、ヒューマントラストシネマ渋谷ほかにて
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