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「スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース」をより楽しむために【前編】 コミック、実写、アニメ、それぞれの特性を生かしたスパイダーマンたち


大人から子供まで誰もが知るヒーローの“スパイダーマン”。最新作「スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース」のBlu-ray&DVDが10月4日にリリース(レンタル同日)されたのに合わせ、どのような歴史を経て今の人気まで辿りついたのか。その歴史と最新作の魅力を探る。

廃刊間近のコミック誌にスパイダーマン初登場

『スパイダーマン』は、マーベルの中でも特別な作品と言える。それはこれまでに実写映画化だけで8回、長篇アニメーション映画で2回、「スパイダーマン:ビヨンド・ザ・スパイダーバース」が無事来年公開されれば、映画だけで11本の作品が作られることからも明らかだろう。その他にテレビでも1977〜79年に全米で実写化。日本でも東映が特撮テレビドラマシリーズで78〜79年にかけて放映。さらにテレビアニメはミニアニメ版を含めると12作品が制作されている。 

そもそも『スパイダーマン』がコミックスで産声をあげたのは、62年『アメイジング・ファンタジー♯15』という、すでに廃刊が決まっていたコミック・ブックだった。描いたのは故スタン・リー。41年、スタン・リーは18歳にして編集長に異例の抜擢をされた。だが、第二次世界大戦終結後、コミックスは表現の自由を奪われていた。54年にコミックス・コード(コミックス倫理規定)委員会が設定されるなどして、ホラーものや戦争ものなど、表現の規制が始まったからだ。描きたいことを奪われて、辞めるつもりだったスタン・リーは、廃刊が決まっているコミックスで最後に好きなことを描いてしまおうと決意。その中のひとつが『スパイダーマン』だったのだ。 

以前からスパイダーマンの発想だけは頭の中にあったというスタン。そもそもは壁に張り付いたり、歩いたりする超人のイメージがあり、そこからモスキートマンという名前を最初は考えたものの、後にスパイダーマンという名前を思いつき改名したのだそう。 

突出すべきは、スパイダーマンにはもとから特殊能力があったのではなく、あくまでも蜘蛛に嚙まれたのが要因で、蜘蛛の力を授かったとした点だ。どこから見ても筋肉隆々のヒーロータイプであるのと違い、華奢な体で縦横無尽に摩天楼を飛び回って活躍するスパイダーマンは、ティーンの支持を集めた。しかも決して裕福な育ちではないところも魅力的だった。つまりスタン・リーはヒーロー物としての面白さに人間味をプラス。たまたま超人的能力を得た十代の若者の物語として『スパイダーマン』を生み出し、人気を獲得した。63年3月からソロのシリーズが刊行されることになり、大人気コミックスへと成長していった。


実写「スパイダーマン」は米社会の象徴的なヒーローに

かくして最初に実写化された、サム・ライミ監督版シリーズの3作は、あくまでも平凡な、決して裕福ではない男が主人公……という原作の一面を大切にして作られている。その証拠がライミ版「スパイダーマン」はウェブ・シューター(糸を出す装置)ではなく、自分の手から蜘蛛の糸が出てくるという仕掛けにしたところだ。ライミ監督はこれについて「ウェブ・シューターが作れる技術があったら、それだけで裕福になれるよ……」と語っていた記憶がある。 

とにかく02年公開の映画「スパイダーマン」は、どこにでもいるような青年がヒーローとなった作品で、9・11のアメリカ同時多発テロ事件で揺れる米社会で象徴的な大ヒットとなった。それは殺伐とした時代に、誰もがヒーローを求めている……という気持ちに即していたからに違いない。 

面白いのは、このライミ版のヒットで、マーベル側が今ならスパイダーマンに新しい読者を呼び込めると見たのであろう、すべてリセットしてゼロから新しい『スパイダーマン』である『アルティメット・スパイダーマン』を作りあげたことだ。結果的にはそれがパラレルワールドに近い状況を作り出し、さらには映画「スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム」やアニメーション版「スパイダーマン:スパイダーバース」などで描かれることとなる多元宇宙(マルチバース)の概念が入り込んでいくことになったのだ。 

コミックスも実写映画もアニメーションも、どの媒体でもそれぞれの持ち味を活かしながら、時に影響しあいながら魅力的にスパイダーマンというキャラクターが語られてきた。それらを見事に融合させたのが本作「スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース」ではないだろうか。 【後編へ続く】

文=横森文 制作=キネマ旬報社(キネマ旬報10月号より転載)

 

『スパイダーマン アクロス・ザ・スパイダーバース』

※写真はプレミアム・スチールブック・エディションのものです

●10月4日(水)Blu-ray&DVDリリース(レンタル同日リリース)  
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2023年/アメリカ/本篇140分
監督:ホアキン・ドス・サントス、ケンプ・パワーズ、ジャスティン・K・トンプソン
製作:アヴィ・アラド 
製作・脚本:フィル・ロード、クリストファー・ミラー 
声:シャメイク・ムーア(小野賢章)、ヘイリー・スタインフェルド(悠木碧)、ジェイク・ジョンソン(宮野真守)、オスカー・アイザック(関智一)、イッサ・レイ(田村睦心)ほか 

発売・販売元:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
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