観客に、世界に、確実に届いた〈真剣に楽しく〉撮られた映画「ケイコ 目を澄ませて」

元プロボクサーの小笠原恵子の半生を綴った自伝『負けないで!』を原案に、「きみの鳥はうたえる」の三宅唱監督が、岸井ゆきの主演で映画化した「ケイコ 目を澄ませて」。耳が聞こえないボクサーが、さまざまな感情に揺れ動きながらもひたむきに生きる様と、彼女に寄り添う人の姿を、降り注ぐ光の粒や立ち込める“匂い”と共に16ミリフィルムで活写。第72回ベルリン国際映画祭でプレミア上映されるや「すべての瞬間が心に響く」と絶賛され、第27回釡山国際映画祭でも話題になった本作のBlu-ray&DVDが、10月4日にリリース。これを機に改めて本作の魅力に迫ってみた。


「できる限り嘘はつきたくない」思いが結実した受賞ラッシュ

ただ与えられた役を演じる俳優としてではなく、岸井が“ケイコ”として真正面からボクシングに取り組み、生きることと真剣に向き合う姿や、そんな岸井をボクシングジムの会長役として見守る、三浦友和の慈愛に満ちた眼差し。作り手たちの「映画ではあるが、できる限り嘘はつきたくない」との思いが、観客に確かに届いた結果、第96回キネマ旬報ベスト・テンでは、岸井が本作ほかで主演女優賞に選出され、日本映画作品賞および、三浦友和の助演男優賞、読者選出日本映画監督賞とで4冠を獲得。国内の賞レースも大いに賑わせた。

第46回日本アカデミー賞・最優秀女優賞を受賞した際のスピーチで、岸井が「まだやってるんです。上映中なんです。ぜひ劇場で観ていただきたいなって思います。今、それだけが私の望みです」とアピールしたように、「ケイコ 目を澄ませて」は、見知らぬ誰かと、暗闇で同じ時を共有することが何より好きな人たちが紡いだ「映画館で観ることで、もっとも真価が発揮される映画」である。だがその一方で、この映画を必要とする人たちが、必要なときいつでも観られる機会を設けることも、作り手たちの役割であるに違いない。 


全身全霊で向き合う姿に立ち会えるメイキング

本作のBlu-ray&DVDには、イベント映像集と共に、撮影に密着したメイキングも収録。ケイコとトレーナーが繰り出す、リズミカルなコンビネーションミットが生まれた瞬間や、鏡の前で会長とケイコが並んでシャドウを始める直前にどちらからともなく自然と交わされた、“とある行動”。映画「ケイコ 目を澄ませて」の名シーンの数々が、どんなチームによって、どんな思いで作られていたのかが、まさに手に取るように伝わってきて、胸が熱くなる。「いま、(聞こえないはずの)ゴングが聞こえちゃった」という岸井の自己申告により、リテイクが決定する場面には鳥肌が立った。 

ボクシングと手話と糖質制限という3つの壁に、「これで朽ちてしまってもいいとさえ思っていた」と、文字通り全身全霊で向き合う岸井と、劇中のケイコのトレーナー役とボクシング指導も担った、近年のボクシングが描れる日本映画には欠かせない松浦慎一郎による、壮絶な練習風景にくぎ付けになる。現場にいる誰もが、三宅監督の下で「1カットずつ丁寧に、着実に、真剣に楽しく」映画を作っている。クランクアップで松浦と岸井から溢れ出す泣き笑いの表情が、この映画を物語っている。

文=渡邊玲子 制作=キネマ旬報社(キネマ旬報2023年10月号より転載)

 


「ケイコ 目を澄ませて」

●10月4日(水)Blu-ray&DVDリリース(レンタル同日リリース)
▶Blu-ray&DVDの詳細情報はこちら

●Blu-ray:6,050円  DVD: 4,950円(税込)
●映像特典
・メイキング
・イベント映像集(完成披露試写会舞台挨拶、公開記念舞台挨拶、釜山国際映画祭トークショー)
・予告集
※メイキング・イベント映像集には日本語字幕機能が収録されます。

●2022年/日本/本編99分
●監督:三宅唱
●原案:小笠原恵子『負けないで!』(創出版)
●脚本:三宅唱、酒井雅秋
●撮影:月永雄太
●照明:藤井勇
●録音:川井崇満
●手話監修:越智大輔
●出演:岸井ゆきの、三浦誠己、松浦慎一郎、佐藤緋美、中原ナナ、足立智充、清水優、丈太郎、安光隆太郎、渡辺真起子、中村優子、中島ひろ子、仙道敦子、三浦友和

●発売・販売元:ハピネット・メディアマーケティング
©2022 映画「ケイコ 目を澄ませて」製作委員会/COMME DES CINÉMAS 

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