大海原を子供たちと団地旅する、冒険ファンタジー!「雨を告げる漂流団地」

若干29歳で「ペンギン・ハイウェイ」(2018)を作り上げた、スタジオコロリドのアニメーション監督・石田祐康による新作「雨を告げる漂流団地」のBlu-rayとDVDが、9月20日に発売される(レンタルDVDも同日リリース)。

 

団地に忍び込んだ子供たちが、迷い込んだ不思議な世界

この作品は姉弟のように育った幼馴染みの航祐と夏芽が、小学6年生のクラスメイトたちと共に取り壊しが進む『おばけ団地』に忍び込んだことから、不思議な現象に巻き込まれていく冒険ファンタジー。かつては仲の良かった航祐と夏芽だが、航祐の祖父・安次が亡くなってからは関係がぎくしゃくして、顔を合わせればケンカばかりしている。『おばけ団地』は二人にとっては長年暮らしてきた我が家で、夏芽は安次との思い出も詰まったこの場所と別れを告げることができない。彼女は立ち入り禁止の団地に何度も通っていて、そんな夏芽とおばけ探しに団地へやって来た航祐と仲間たちが遭遇。彼らはひょんなことから、異世界へ団地と共に移動してしまう。

彼らが迷い込んだ世界は団地の周りが一面の大海原で、団地は海の上を漂流していく。食料はたまたま持っていたお菓子しかなく、いつ元の世界に帰れるかわからない状態で、航祐たちはサバイバル生活を余儀なくされる。安次の死に関するわだかまりが解けない航祐と夏芽の関係をメインに、航祐のことが好きな我がままなお嬢様の令依菜、令依菜の親友・珠里、航祐の友人である譲と太が、ケンカと和解を繰り返しながら困難な状況を乗り越えていく様を映し出している。

 

老朽化した昭和の建築遺産、『団地』がもう一人の主役

もう一人の主役が、彼らが乗る船とも言える老朽化した団地。日本では1958年頃から『団地』という言葉が使われ始めたというが、その建設ラッシュが起こったのは1960~70年代だった。ここに登場する団地も築約60年とされているので、建てられたのは60年代だろう。経年劣化が進み、耐震構造的にも問題があるこの時代に建設された団地は、近年建て替えが進んでいる。劇中で『おばけ団地』と呼ばれているように、錆びと汚れが目立つ古い団地は、今や「クロユリ団地」(2013)などのホラー映画の舞台になっている。だがその一方で、半世紀以上の時を積み重ねてきた建物は、そこに住む人々の思い出が詰まった故郷でもある。日本は戦争、自然災害などによるスクラップ・アンド・ビルドを繰り返して、復興と繁栄の歴史を築き上げてきたが、昭和の遺産とも言うべき団地をスクラップにするのはしょうがないとしても、そこに住んだ人々の記憶までスクラップにして棄ててもいいのか。ここでは団地とうまく“お別れ“ができない夏芽の心情を通して、そのことに問題提起している。

ここでクローズアップされるのが、航祐たちが団地で出会う謎の少年・のっぽ君の存在。夏芽は最初、取り壊し中の団地でのっぽ君と会ったことで、ここに何度も通うことになったのだが、やがてのっぽ君は人間ではないことが分かってくる。また団地は漂流中に、すでに閉鎖して取り壊されたプールやデパートの建物と接近する。そのたびに航祐たちは食料調達のために接近した建物の内部に潜入するが、中身は完全な廃墟。つまりこの世界では、廃墟ばかりが漂流しているのである。今また新たに廃墟になろうとしている団地に住み着いているのっぽ君は、建物と一体化した存在で、その謎めいた行動が航祐と夏芽を漂流の旅の答えへと導いていくのだ。

 

みんなで危機を乗り越えていく、子供たちの頑張りが見どころ!

団地という舞台と世界観は異色だが、そこで展開される物語は、子供たちの友情が絡んだ冒険活劇。彼らは海に落ちそうになった仲間を助けるため勇敢に行動し、元の世界へ帰る方法をみんなで団結して探っていく。ただ全員が小学6年生なので、やれる行動も出す知恵にも限界があり、彼らは何度も挫折を味わう。その等身大の子供たちの頑張りが、観る者を惹きつける作品になっている。

初のオリジナル作品に挑戦した石田監督は、実際に自分が団地に移り住んで映画の制作に臨んだというが、全体の建物は大きくても実は仕切られた空間の多い団地の、心落ち着く空間の狭さや様々なことに代用できる調度品などを活かし、ここでは団地ならではのサバイバル生活を見事に描き出した。

今回のBlu-rayには本編の他に、2023年8月26日に、映画のモデルになった「ひばりが丘団地」で特別上映された「ひばりが丘団地 特別上映会ver.~漂流が始まった場所~」の本編映像や、特報3本と本予告編などのPV集、航祐と夏芽を演じた声優、田村睦心と瀬戸麻沙美がキャラクターの魅力と作品の見どころを語り合う劇場幕間映像や7つの未公開カット集。そして完成したアニメーションと比べて観るのも面白い、OPムービーの絵コンテ・ヴァージョンを収録した特典映像が収められている。子供たちが団地と共に繰り広げるひと夏の冒険を、このソフトならではの特典映像と共に多くの人に楽しんでほしい作品だ。

 

文=金澤誠 制作=キネマ旬報社

 

 
「雨を告げる漂流団地」

●9月20日(水)Blu-ray&DVDリリース(レンタル同時)
▶Blu-ray&DVDの詳細情報こちら

豪華版 Blu-ray 価格:8,800円(税込)
【ディスク】<1枚>
★Blu-ray 限定仕様★
・特製スリーブケース
・夏の思い出フォトカード

★映像特典★※Blu-ray 商品のみ
・「ひばりが丘団地 特別上映会ver. ~漂流が始まった場所~」
 ※2023年8月26日に”ひばりが丘団地”にて実施されたイベント上映仕様の本編映像
・未公開カット集
・OP ムービー(絵コンテver)
★封入特典★※Blu-ray/DVD 共通
・スペシャルブックレット
★特典映像★※Blu-ray/DVD 共通
・PV 集
・劇場幕間映像

●通常版DVD 価格:6,600円(税込)
【ディスク】<1枚>
★封入特典★※Blu-ray/DVD 共通
・スペシャルブックレット
★特典映像★※Blu-ray/DVD 共通
・PV 集
・劇場幕間映像


●2022年/日本/本編119分
●監督:石田祐康
●脚本:森ハヤシ/石田祐康
●音楽:阿部海太郎
●主題歌・挿入歌:ずっと真夜中でいいのに。
●制作:スタジオコロリド


●出演:田村睦心、瀬戸麻沙美
 村瀬歩、山下大輝、小林由美子、水瀬いのり、花澤香菜、島田敏、水樹奈々


●発売・販売元:バップ
©コロリド・ツインエンジンパートナーズ

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