認知症を患う父の視点から世界を描いた初監督作「ファーザー」で、アンソニー・ホプキンスに二度目のアカデミー賞主演男優賞をもたらし、自らも脚色賞を受賞したフロリアン・ゼレール。劇作家としても名を馳せる彼が手掛けた第2作「The Son/息子」のBlu-ray&DVDが、9月13日(水)にリリースされる。

魔人と女性学者が織りなす、『3つの願い』に関する寓話

ゼレールが「どうしてもこの物語を伝えたかった」と語る本作は、「ファーザー」に続く家族3部作の第2部にあたる。その脚本の素晴らしさに打ちのめされ、これまで一切面識がなかった監督に「ぜひ参加させてほしい」と熱烈な逆オファーを送った名優ヒュー・ジャックマンが主演と製作総指揮を兼任し、ゴールデングローブ賞主演男優賞(ドラマ部門)にノミネートされた。ローラ・ダーンやヴァネッサ・カービーら実力派俳優に加え、前作に続きアンソニー・ホプキンスも重要な役どころで出演している。また、ヒュー・ジャックマン演じるピーターの息子ニコラス役に抜擢され、大物たちの間で見事に難役を演じ切った新人俳優・ゼン・マクグラスにも注目だ。

 

新たな家族と順風満帆な生活を送る父親に届いた息子からのSOS

優秀な弁護士であるピーター(ヒュー・ジャックマン)は、再婚した妻のベス(ヴァネッサ・カービー)と生まれたばかりの赤ん坊と共に充実した日々を過ごしていた。そんな中、前妻のケイト(ローラ・ダーン)が17歳の息子ニコラス(ゼン・マクグラス)の様子がおかしいと新居を訪ねてくる。心配したピーターがニコラスに会いに行くと、彼はピーターと暮らしたいと懇願するのだった。「父さん、助けて。僕は何かがおかしい」——心に病を抱え不登校になってしまったニコラスは今、絶望の淵にいた。

その願いを聞き入れ同居生活を始めたピーターは、ニコラスを近くの高校に転校させ、セラピーも受けさせる。全てが好転しているように感じられていた矢先、ベスがニコラスのマットレスの下からナイフを発見。ピーターは息子に、止めていたはずの自傷行為をなぜまだ続けるのかを問い詰めるが…。
本作は、ゼレールが自らの人生から着想を得て手掛けた戯曲を舞台化に続き映像化したもので、非常にパーソナルな物語でありながら、子どもと対峙する全ての人に衝撃を与えるヒューマン・ドラマだ。

 

“完璧な親”などどこにもいない

当たり前だが、親も人間だ。いつも答えを知っているわけではないし、間違うことだってある。イライラもする。しかし、こと子どもと向き合うと、自分を「正」と信じ込み、子を愛するがあまり自分の理想を押し付け、無意識にコントロールしようとしていないだろうか。自分のことは棚に上げ、“理想の子ども”という重圧を与えていないだろうか。

両親の離婚により精神を病んだニコラスは、不登校になり自分の殻に閉じこもるようになる。しかし、ピーターとケイトは、学校で何か問題があったと思い込み、息子の不調の理由がまさか自分たちにあるとは微塵も考えない。このボタンの掛け違いが、悪循環の始まりだ。

ピーターは父親として息子に何ができるのか懸命に考え、向き合おうとする。しかし、彼がやることなすことはすべて空回り、息子の心の奥はいつになっても理解できない。焦りと混乱から、ピーターの息子に対する質問はまるで裁判の“尋問”のようになり、その高圧的な口調は、ピーターが嫌っていた父親(アンソニー・ホプキンス)にそっくりだった。自分が親にされて嫌だったことを、いつの間にか自分も子どもにしてしまっている。ピーターは言う、「自分が嫌いな役を全力でやるのは悲しい」と。息子を救いたい、でもどうすればいいかわからない。もう、愛だけでは治せない。

ピーターが我が身をふりかえる時、ケイトと6歳のニコラスと3人で出かけた海での映像が挿入される。父親としての自信に満ち溢れ、ニコラスからの絶対的な愛を感じられていたあの頃。自分はどこで、何を、見落としたのだろうか。

子育ては新たな発見と後悔の繰り返しだ。正解などない。親にできることは、子どもの些細なサインを見落とさないように、ひとつでも笑顔が生まれるように、見守り続けることぐらいなのかもしれない。筆者も2人の子どもを育てる親として、涙でかすんだエンドロールを観ながらそんなことをずっと考えていた。

 

全編に漂うリアルな空気感は、いかにして生まれたのか

「この映画に関しては、あまりリハーサルをしないほうが、インパクトが大きく効果的だと直感的に思った」と、監督は語る。撮影するにあたり、物語の背景について監督と俳優は色々と話し合ったが、本番ではそれよりも現場で体験する感情が重視された。その効果が最大限に感じられるのが、終盤の場面。登場人物たちはここで人生最大の試練に直面することになるが、このシーンは1発撮りだったという。俳優たちの顔や目のリアルな表現は必見だ。

また本作では、キャラクターが悲嘆に暮れるシーンでは手持ちカメラを採用。一方で、劇中で最も重要で悲劇的な場面はカメラワークから外し映さないという手法を取っている。これにより、観客が自分なりに作品を解釈することを目指した。『ファーザー』でも組んだ撮影監督ベン・スミサードによる登場人物の心情がつぶさに伝わる映像は、きっと観る者の心を揺さぶり続けることだろう。

Bly-rayの特典映像では、現場での貴重なメイキングや監督&キャストのインタビュー、予告編集を収録(DVDは予告編集のみ収録)。本編と合わせてぜひチェックしてみてほしい。

 

文=原真利子 制作=キネマ旬報社

 

 
「The Son/息子」

●9月13日(水)Blu-ray&DVD発売(レンタルDVD同時リリース)
▶Blu-ray&DVDの詳細情報こちら

 

Blu-ray 価格:5,280円(税込)
【ディスク】<1枚>
★映像特典★

・メイキング
・監督&キャストインタビュー
・予告編集


●DVD 価格:4,180円(税込)
【ディスク】<1枚>
★映像特典★

・予告編集


●2022年/イギリス/本編123分
●監督・脚本・原作戯曲・製作:フロリアン・ゼレール
●共同脚本:クリストファー・ハンプトン

●出演:ヒュー・ジャックマン、ローラ・ダーン、ヴァネッサ・カービー、ゼン・マクグラス、アンソニー・ホプキンス

●発売元:キノフィルムズ/木下グループ 販売元:バップ
© THE SON FILMS LIMITED AND CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION 2022 ALL RIGHTS RESERVED.

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