これは体感アトラクションなのか? パニックアクション「97ミニッツ フォールアウト」で、貴方は悪夢のフライトの乗客になる!

航空機内で起きるパニックサスペンス、それは映画ファンをもっとも高揚させるテーマのひとつだ。墜落の危機、狭いキャビンでの銃撃戦、絶体絶命の中で葛藤する人間ドラマ。古くは「大空港」(70年)「エアポート'75」(74年)があり、「エアフォース・ワン」(97年)、「ユナイテッド93」(06年)など数々の名作が刻まれた人気ジャンルに、また1本、新たなタイトルが加わった。

9月13日にレンタルリリースされた「97ミニッツ フォールアウト」はノンストップで緊急事態が連続、視聴者が予想するストーリーを次々と裏切り続ける究極の航空機パニックアクションだ。5分後の出来事がまったく読めない展開は視聴者を劇中の乗客と同じ目線し、悪夢のフライトに同情した気分に引き込む。

なにしろ事件を起こした犯人グループのひとりでインタポールの潜入捜査官と名乗る男(ジョナサン・リース=マイヤーズ)ですら、ヒーローか犯人か最後まで見極めがたいのだから一体誰が信じられるのか? 機内で繰り広げられるサバイバルの緊張と興奮を、あなたも体感してほしい。

ヒーロー不在! 開始5分で衝撃の展開

北大西洋上を飛ぶオーシャニック航空420便は到着地のアメリカまであと1,100マイル。約97分後に燃料切れとなるが、順調なフライトならば問題なく着陸できるはずだった。だが機内にハイジャック犯が現れ平穏なフライトは一変、あっという間に機長や航空保安官が撃たれ、開始から5分で本来ならヒーローとなるべき登場人物が消えてしまう。

犯人グループは飛行機の操縦能力は未知数、自動運転システムをオフにして機体は急降下を始め、さらに犯人グループの撃った銃弾のせいで機内の気圧が急変、97分どころかあと数分で犯人含め乗客全員が死亡するというとんでもない事態に陥る。どうすれば機内の気圧を回復できるのか、そして乗客がとった行動は…。とにかく一瞬たりとも目が離せないスリルの連続なのだ。
 
地上から機体を監視していたアメリカ国家安全保障局スタッフは、自動運転が解除されたため安全に誘導できず、パイロットが撃たれ連絡すらおぼつかない。そこに颯爽と現れるアレック・ボールドウィン演じるホーキンス指揮官は“ティン・マン(ブリキ男)”とあだ名される無慈悲な男だ。“ティン・マン“とは「オズの魔法使い」に登場する温かいハートを失った中身の空っぽなブリキの木こり。彼の下した命令は戦闘機F22を発進させ420便を撃墜するという非情なものだった。不安定に飛行する旅客機はすぐ戦闘機に追いつかれ、ミサイルの標的になる。放たれたミサイルを彼らはかわすことができるのか。そして眼の前にはもう1機の旅客機が現れニアミスに!
 

事件から復帰したアレック・ボールドウィンの複雑な演技も見どころ

主役のジョナサン・リース=マイヤーズがすべて解決するだろう、というありふれた予測はあてにならない。地上から事件解決を指揮するアレック・ボールドウィンも大惨事を招く一歩手前で部下たちの機転で失態から救われる。こんなシナリオをよく引き受けたと思える危険人物スレスレの役だが、彼らもそれを楽しんで演じているようだ。映画の新鮮味はそんな部分にもある。

監督のティモ・ヴオレンソラは「スター・トレック」のパロディ映画「スターレック 皇帝の侵略」(05年)や月の裏側で生き延びたナチスがUFOで来襲する「アイアン・スカイ」(12年)などSFコメディで知られる。このフィンランド出身のインディ系監督はその後着々と腕をあげてハリウッドに注目され、本作は超大作「ミッドウェイ」(19年)製作チームが参加する話題作となった。プロットが出尽くしたと思われがちなジャンル映画に、インディ系の監督らしい掟破りで奇想天外なツイストを惜しみなく投入、まったく目が離せない衝撃的サスペンスに仕上げた。 

アメリカ国家安全保障局の指揮官を演じ機上のパニックをさらに混乱させるアレック・ボールドウィンは2021年、映画の撮影中に拳銃誤射事件で起訴され、しばし出演自粛を余儀なくされた。が、この4月に過失致死罪は取り下げられ、本作によって本格的な映画復帰を果たした。そうした経緯を重ね合わせると、彼の表情とセリフから複雑な胸中が垣間見える。本作をより深く味わうためにもぜひ注目してほしい。

連続する大惨事、発覚する衝撃の事実、正義感に燃えた乗客の余計な手出し、犯人グループの内紛など、次から次へ事態は急変する。この航空機の機内には絶対的ヒーローは登場しない。危機を乗り越える敏腕機長も、犯人を翻弄するマッチョ刑事も、完璧なチームプレイの特殊部隊もいない。行動がいちいち裏目に出る普通の人々がいるだけだ。だから事態は予測不能で、見ている者も同じパニックに巻き込まれる感覚になる。

さあどうする、燃料切れは刻々と迫る。生きて機内から脱出できるのか!? 「97ミニッツ フォールアウト」はそんな心臓バクバクの急降下パニックアクションだ。

文=藤木TDC 制作=キネマ旬報社

 

 



「97ミニッツ フォールアウト」
●9月13日(水)レンタルリリース(セル:9月6日)
▶ DVDの詳細情報はこちら

●2023年/イギリス/本編93分
●監督:ティモ・ヴオレンソラ
●脚本:パヴァン・グローバー
●出演:ジョナサン・リース=マイヤーズ、アレック・ボールドウィン、マイアンナ・バーリング、ピーター・ブルック

●発売・販売元:アメイジングD.C.
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