スワンソングの映画専門家レビュー一覧
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米文学・文化研究
冨塚亮平
かつての差別と今の寛容。世間からの認識が進むなかで、ゲイ文化が成熟と同時に失ったものにも目を凝らしつつ、個人的な愛惜の念をたっぷり込めた音楽とともに、故郷とそのゲイコミュニティの過去と現在を描いた本作は、独身ゲイの老いと孤独の問題を正面から扱っている点でも極めて今日的な一本だ。そしてとにかく、最高にチャーミングでありながら、同時に時折表情からえも言われぬ悲哀を感じさせるウド・キアーが、キャリアハイを更新したのではないかというほどに素晴らしい。
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日本未公開映画上映・配給団体Gucchi's Free School主宰
降矢聡
いくらでも大きく華々しい話に出来そうなところ、あくまで一つの町で完結する程度の、この規模の小ささがとても好ましい。誰もが知っているわけではないけれど、誰も知らないわけではないという絶妙な距離感が、主人公を街の古株のようにも、異邦人のようにも映し出し、独特な親密さを映画にもたらしている。歴史として語られるほど、社会や町を変えたわけではない。しかし確かに私の人生はあなたによって変わったのだと、そんな小さな無数の声が本作を形作っているかのよう。
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文筆業
八幡橙
単なる「終活」や「郷愁」や「老境の悲哀」の映画ではない。死を前に過去を思うとき、誰しも一足飛びにそこに立ち返るわけではなく、その間も流れ続けた刹那刹那を必死に生きてきたのだから。ウド・キアー演じる主人公は、過ぎた細やかな時の砂を一粒一粒掬い、撫で、慈しむ。彼が求めたヘアクリームのように古臭いと一蹴され葬り去られるものでも、意味のないものはない。過去の一瞬は今に息づき、その先へと確かに繋がってゆく。淡い光の内に力強くそう伝える、忘れ難き名作。
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