アプローズ、アプローズ!囚人たちの大舞台の映画専門家レビュー一覧

アプローズ、アプローズ!囚人たちの大舞台

刑務所で演技を教えることになった俳優が、さまざまな個性をもつ囚人たちと共に、サミュエル・ベケット作『ゴドーを待ちながら』の外部公演を成功させた80年代のスウェーデンの実話をフランスで映画化したヒューマンドラマ。人生崖っぷちの俳優エチエンヌを、「オーケストラ・クラス」(17年)で子供たちに音楽を指導していたカド・メラッドが演じている。刑務所の中では「待つことばかりだ」という囚人たちの言葉を聞き、『ゴドーを待ちながら』の演目を選ぶエチエンヌ。初めは茶化すばかりで真面目に取り組まない囚人たちが、エチエンヌの情熱と演劇の真の力によって次第に稽古に没頭する過程が丁寧に描かれていく。監督はバイプレイヤーとして俳優の実績を積み、「マドモワゼル」(01年)や「灯台守の恋」(04年)の脚本が評価され、「アルゴンヌ戦の落としもの」(15年)で監督デビューしたエマニュエル・クールコル。実際に運営されている刑務所で撮影し、刑務所のスタッフ全員と打ち合わせを重ねるほか、事前にキャストと刑務所を訪問するなど、徹底的にリアリティにこだわった。明るい希望が見い出せる映画だ。
  • 映画監督/脚本家

    いまおかしんじ

    囚人たちが監獄の窓から覚えたセリフを怒鳴って、みんなが呼応するところでボロ泣き。それぞれ閉じ込められてても、連帯することができる。芝居っていいなと思った。物語の省略が大胆で唸った。バンバン時間が過ぎていく。え!そんなに飛ぶの! びっくりで快感だった。彼らの過去の犯罪にあまり触れないのも良かった。描くのはそこじゃない。外に出たいとずっと待っている囚人たちの、生きる喜びとは何なのか?外に出た時の彼らの喜びようったらない。散歩に行く前の犬みたい。

  • 文筆家/女優

    唾蓮みどり

    今はあまり仕事のなくなってしまったコメディアンのエチエンヌが演出し、囚人たちが俳優として『ゴドーを待ちながら』を劇場で演じる。テンポも良く、見ていてあっという間。ひたすら待ちつづけること=囚人たちの物語だと考えるエチエンヌが、決して囚人たちの過去で判断するのではなく、目の前にあることから新たに関係性を築き上げていこうとする心意気に魅了されつつ、少しだけもやっとする。実話に基づく物語が美談になりがちなことがなかなか純粋に楽しめなくて悔しい。

  • 映画批評家、東京都立大助教

    須藤健太郎

    「字が読めないのに3ページものモノローグを覚えたんだ」とかいって前振りをしておくわりに、いざ本番を映す段でもクロースアップを続行、しかも演出家や観客との切り返しである。このあたりの無頓着さはやはりいかんともしがたく、最後の一人芝居の位置付け方も的外れだろう。ただ、整音のせいか台詞回しのせいか、特にマリナ・ハンズが話すたびに米国ドラマの仏語吹替版を見ているような錯覚に誘われるのだが、紛い物をさらに紛い物にしたような、そんな平坦な声が心地よい。

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