私のはなし 部落のはなしの映画専門家レビュー一覧

私のはなし 部落のはなし

「部落差別」の歴史や、今も根強く残る差別の現状に迫るドキュメンンタリー。その起源と変遷から近年の「鳥取ループ裁判」まで、堆積した差別の歴史と複雑に絡み合ったコンテクストを多彩なアプローチで鮮やかにときほぐし、見えづらい差別の構造を描き出してゆく。監督は、屠場とそこで働く人々を写した『にくのひと』(2007)が各地で上映され好評を博すも、劇場公開を断念せざるをえなかった経験を持つ満若勇咲。プロデューサーは「なぜ君は総理大臣になれないのか」「香川1区」の大島新。
  • 脚本家、映画監督

    井上淳一

    タイトルがいい。部落と謳ったこともだが、「私」とは誰か。様々な部落関係者が登場する。当事者、支援者、差別する者、老若男女。あくまでも低い目線で多面的に語られる、私にとっての部落。だが、「私」は彼らだけではない。自分は差別なんかしていないと思い込んでいる僕であり、部落なんてまだあるの?と思っているあなたである。この国がいつの間にか作り出した、天皇制と対をなす差別構造。寝た子を起こすなではない。知らなければ何も始まらない。最良の教科書がここにある。

  • 日本経済新聞編集委員

    古賀重樹

    部落差別の問題に正面から向き合う真摯なドキュメンタリー。若い人からお年寄りまで、差別を受けた当事者が実名で顔を出し、語る。地名も実景も出る。数人の当事者(時に周辺の人々も加わる)が語り合う方法を多用し、具体的な体験と本音を自然に引き出している。語り手がよく考えて自分の意志で語っているから説得力がある。明治以来の近代史と結びつく差別意識や同和対策の変遷も奥が深い。近年の鳥取ループ裁判の被告にも直接取材していて、この問題の「今」が浮かび上がる。

  • 映画評論家

    服部香穂里

    情報量の多い労作だが、氷川きよし推しの闊達な老婦人ら興味そそられる面々も含みつつ、証言者を幅広く選んだ結果、尺が膨大となった上、監督自身の“私”があやふやになった感も。部落問題にもふれた自作にまつわる、一部の当事者のクレームで上映中止に追い込まれた苦い実体験が、制作の一因であることが明かされるため、似て非なる存在であるはずの某人物と対峙する場面に息を呑んだが、中途半端に友好的な空気が醸され、監督の穏やかな人柄は窺えるも、物足りなさを覚えた。

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