ぼけますから、よろしくお願いします。 おかえり お母さんの映画専門家レビュー一覧

ぼけますから、よろしくお願いします。 おかえり お母さん

    東京で働くテレビディレクターの信友直子が、広島県呉市で暮らす認知症をわずらった80代の母と、そんな母を支える90代の父にカメラを向け、20万人の観客を得る大ヒットとなったドキュメンタリー「ぼけますから、よろしくお願いします。」(18)の続編。認知症が進み、脳梗塞を発症した母は入院を余儀なくされる。父は毎日、母の手を握って「元気になって家に帰ろう」と励まし続ける。前作で95歳にして初めてリンゴの皮をむいた父は、続編では100歳を前にして各段に家事の腕が上がり、母の介護を担うべく筋トレを始める。少子化や老老介護、終末医療など日本の高齢化社会の深刻な問題を含みながらも、愛情あふれる夫婦の姿が活写される。信友直子は、冷静さを要する作り手の立場と、感情的にならざるをえない一人娘としての立場の葛藤を乗り越えて、どの家庭にも起こりうる「宿命」と向き合い、普遍的な物語を綴った。
    • 脚本家、映画監督

      井上淳一

      前作は観ていない。今作も観たくなかった。亡き母を思い出して泣くに決まっているから。で、泣いた。元気な姿に泣き弱った姿に泣き、最後の一時帰宅に号泣する。娘はどんな時でもカメラを止めない。僕には無理かも。セルフドキュメンタリーってここまでやらなきゃいけないのか。でも映画ってそうだよな。弱さを撮る強さだよな。一緒に傷つく優しさだよな。こういう映画をどうして観るんだと思っていた。でも解った。それが永遠に刻まれてるから観るんだ。これ以上の親孝行があるか。

    • 日本経済新聞編集委員

      古賀重樹

      介護、そして看取り。家族でしか撮れないドキュメンタリーだ。買い物帰りの父が疲れて立ちすくむ姿や認知症の母のおかしな行動にも冷徹にカメラを向ける。そこに父と母、そして撮影する娘の密接な関係性が映る。倒れた母を励まし、自分が面倒を見るからと筋トレを始める父。弱っていく母に語りかけ、手を握る父。家族でなくてはなかなか入り込めない場面だ。ただ身内であると同時にドキュメンタリストである信友直子のまなざしも感じる。淡々と死を見つめる視点がぶれないからだ。

    • 映画評論家

      服部香穂里

      悲しみも大らかな笑いに変え、カメラを通し生命力のようなものを互いに与え支え合ってきた、この家族だからこその幸福な作品と思う。それだけに、できていたことができない絶望に苛まれたお母さんが、初めて撮影を拒む瞬間には胸が痛む。日記のごとく撮りためた素材を映画として編集、再構成する作業は、愛しい存在の生と死に向き合うことも意味し過酷を極めたと想像するが、監督のほんわか語りと、百歳目前に進化を続けるお父さんの男ぶりがそう感じさせない、唯一無二の人生讃歌。

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