金の糸の映画専門家レビュー一覧

金の糸

ジョージア映画界を代表する女性監督ラナ・ゴゴベリゼが、日本の“金継ぎ”に着想を得て撮り上げた過去との和解の物語。79歳を迎えた作家エレネの元へ、ソ連時代に政府高官だった娘婿の母ミランダ越してくる。そこへ60年前の恋人アルチルから電話があり……。主人公エレネを「ロビンソナーダ」などの監督を務めたナナ・ジョルジャゼが演じる。
  • 映画監督/脚本家

    いまおかしんじ

    老人になったら、行動範囲が狭くなるんだなと思った。家からほとんど出ないし、決まった人としか話をしない。つまんなさそうだけど、そうでもない。日々嫌なことがあり楽しいことがある。ブチ切れてすぐに電話を切ってしまう老人たちが面白かった。主人公の女の人が颯爽としてカッコいい。憎まれ口を叩きながら、杖を振り回す。昔の男のことで嫌味合戦になる。事件らしい事件は起きない。ゆるやかな時間が流れる。退屈だけど心地いい時間。見つめていると色んなことを考える。

  • 文筆家/女優

    唾蓮みどり

    たっぷりと白粉をつけた赤い髪の老女エレネが踊る姿のなんと美しいことか。かつての恋人との電話する甘ったるささえなんと心地よいことか。過去に愛される人間と、過去から見放されてしまう人間が浮き彫りになる。かといって教訓的な示し方はしない。辛さも喜びも?み締めた柔らかなレースのような優しさが胸を撫でてゆく。かつて自分の未来を奪う原因となった相手をただ憎むのでもなく、それでも許せるだろうかと気持ちが揺れる姿にはっとさせられた。監督91歳とは! 必見。

  • 映画批評家、東京都立大助教

    須藤健太郎

    思い出はいまや欠片となり、リフレインとなって繰り返される。タンゴのステップとして、詩の一節として。中庭を囲んだコの字形の集合住宅。生まれる前から住んできたこの場所は、エレネにとってあたかも記憶の収蔵庫であり、向かいの痴話喧嘩はかつては自分の身に訪れた出来事かもしれなかった。三人の老人はそれぞれ文芸・政治・建築の化身だが、それはこの三つの分野が一つの共同体の構築に必須だからだろう。記憶を担う文芸のエレネは次第にジョージアの集合的記憶と化していく。

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