サウンド・オブ・メタル 聞こえるということの映画専門家レビュー一覧

サウンド・オブ・メタル 聞こえるということ

突発性難聴に陥ったヘヴィメタルバンドのドラマーの苦悩と再生を、画期的なサウンド設計で描き、観客が主人公の人生を疑似体験するかのような感覚でたどるヒューマンドラマ。「ゼロ・グラビティ」の音響デザイナーのニコラス・ベッカーがアカデミー賞音響賞を受賞。デンマーク人のミッケル・E・G・ニルソンが編集賞を受賞した。ハイブリッドなドキュメンタリー映画を目指したというダリウス・マーダー監督は35mmフィルムで時系列に沿って撮影を敢行。Amazon Prime Videoで2020年12月より日米同時配信されていたが、映画館のサウンドシステム下の鑑賞を望む声が高まり、急きょ日本の劇場公開が決定した。主人公ルーベンが聴覚ではなく身体的な振動を感じている様子が、観客にもさまざまな「音」と「静寂」のシンフォニーで伝えられ、人生の哀歓が増幅共鳴する。「ヴェノム」のリズ・アーメッドがルーベンを演じてアカデミー賞主演男優賞にノミネートされたほか、73歳のベテラン、ポール・レイシーが手話を駆使して支援団体のジョー役を演じ、助演男優賞にノミネートされた。また、ルーベンの恋人ルー役を「レディ・プレイヤー1」のオリヴィア・クックが演じている。
  • 映画評論家

    上島春彦

    地味だがこれは相当のもん。突然聴覚障碍者になってしまったドラマーの悪あがきを描く。詳細は書けないものの、このオープン・エンディング感覚が鋭い。この時、彼は果たして何かを取り戻したのか、あるいは逆になくしたのか。そこから批評が始まるといった手触り。主人公が手指にラヴ&ヘイトのタトゥを入れているのは「狩人の夜」由来かどうかは分からない。偶然かな。障碍者も楽しめるように字幕にも工夫が。タイトルはキンキンした金属音の意味でありメタルロックではない。

  • 映画執筆家

    児玉美月

    聴覚の喪失を音楽映画の枠組みにおいてカタルシスの一要素として動員するような作品なのかと疑っていたら、別の次元へと連れていかれた。本作にも出演するマチュー・アマルリックが主演した「潜水服は蝶の夢を見る」と同じく、当事者の世界の“感じられ方”を追体験させる手法はともすれば作り手の独善になりかねないが、その辺りの匙加減が絶妙なのだ。音を持たずして開始されるエンドロールの在り様が主人公の人生と見事に呼応しており、観客にその先までをも想像させる。

  • 映画監督

    宮崎大祐

    とかく人間は視覚に頼って生きている。それはわれわれが視覚以外の五感を意識する時間が一日のうちにどれくらいあるかを考えてみればわかるだろう。ゆえに本来は映像と音像が一対一の重みを持つはずの映画芸術も映像表現と呼ばれることこそあれ、音像表現と呼ばれることはない。だが本作の音像は決して映像に屈することがない。それどころか映像と拮抗・凌駕し、映画とわれわれの身体が持つまったく新しい可能性に気づかせてくれる。耳と皮膚で見る映画。劇場の中心で必聴。

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