ボクたちはみんな大人になれなかったの映画専門家レビュー一覧

ボクたちはみんな大人になれなかった

WEB連載中から話題を集めた燃え殻のデビュー作となる自伝的ベストセラー小説を映画化。バブル崩壊後の1990年代からコロナ禍の2020年まで、時代を彩ったカルチャーを交えつつ、テレビ業界の末端で働き続けた青年の恋と友情を抒情的なタッチで綴る。出演は「劇場版 『アンダードッグ』」二部作の森山未來、「タイトル、拒絶」の伊藤沙莉。阪本順治、犬童一心、林海象らの下で助監督を務めてきた森義仁の映画監督デビュー作。
  • 映画・音楽ジャーナリスト

    宇野維正

    まずは、長篇初監督作とは思えない洗練された作品のルックや編集の巧さに感心させられた。一方で、原作の脚色としてこの方向性は正解だったのだろうか? 痛切な悲恋ストーリーとして普遍性の高いコールガール(SUMIREが好演)とのエピソードは表面をなぞっただけで、大根仁作品にも通じる、自己批判や客観性を欠いた気恥ずかしい90年代サブカル懐古主義的な原作の側面が強調されている。そこにまだ商品価値があると思ったのなら、時流を見誤っていると言わざるを得ない。

  • 映画評論家

    北川れい子

    時系列を小刻みに過去へと戻しつつ、その都度、現在に立ち返るという進行はいささか煩わしい。けれども46歳独身の主人公の個人史のなかに、観ているこちらのノスタルジーと気恥ずかしさを誘う確かなリアリティーがあって、まるで時代の揺りかごに乗っているよう。“汚れっちまった悲しみに?今日も小雪の降りかかる”とは、30歳で亡くなった中原中也の詩だが、未熟なまま歳だけとってしまったのは決して〈ボクたち〉だけではない。自嘲でも甘えでもないやるせなさ。俳優陣がみないい。

  • 映画文筆系フリーライター退役映写技師

    千浦僚

    私は原作者燃え殻氏より二歳年下、森山未来演じる佐藤の一歳年上、本作中の時代風俗と気分が記憶にあり体感としてわかる。自分の若き日々、90年代が、完全に時代考証のうえで再現される時代劇と化したことに思わず笑う。だからこそこの映画にかこつけて自分語りはするまい。作中の時代がリアルタイムでなかった人たちが眺めるためのグラフィティだと思った。「糸」「花束みたいな恋をした」路線に加わる佳作だがサブカル的自意識の苦しみと、回顧の叙情は先行二作を超える。

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