ミュジコフィリアの映画専門家レビュー一覧

ミュジコフィリア

音楽を主題にし、第16回文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作となったさそうあきらによる漫画を、「砕け散るところを見せてあげる」の井之脇海主演で映画化した青春群像劇。物の形や色が音として聴こえる朔は、現代音楽を通じその音を表現できることを知る。監督は、「時をかける少女」(2010)や「父のこころ」などを手がけてきた谷口正晃。劇作家・チャップリン研究家で「葬式の名人」などの映画作品にも参加する大野裕之が、脚本・プロデューサーを務める。作曲家の父や将来を嘱望される異母兄にコンプレックスを抱き音楽を遠ざけていた漆原朔を井之脇海が、ヒロインの浪花凪を「みをつくし料理帖」の松本穂香が、朔の異母兄・貴志野大成をミュージカル俳優の山崎育三郎が演じる。
  • 脚本家、映画監督

    井上淳一

    脚本が酷い映画ばかりで本当にイヤになる。異母兄弟の話で弟主役なのに、その弟が分からない。だから弟の話になっていない。子供の頃、音楽をやめた弟は芸大の美術科に入り、兄と再会。そこで見事にピアノを弾くが、ずっとやっていたのか。回想は点にとどまり線にならず、ドラマ以前の登場人物の生き方が見えない。ディテールに神は宿る。脚本は論理。その二つが雑だとすべてが台無し。役者に努力させてピアノのシーンをちゃんと撮る前に、脚本にこそ頭を使って努力してほしかった。

  • 日本経済新聞編集委員

    古賀重樹

    嫡子と庶子の確執というコテコテのメロドラマでありながら、好感をもったのは京都の風景が生き生きしていたから。絵はがき的な景色を切り取るのでなく、あの街の独特の音に耳を澄ましている。賀茂川のせせらぎや、東山の風など、風景と結びついた音が重要なモチーフとなっている。芸術をテーマにすることも、大学を舞台にすることも、この街なら無理なくできる。物語の上だけでなく、人材やロケ地など制作の上でもそうだろう。今日的な京都発の娯楽映画の可能性を感じさせる。

  • 映画評論家

    服部香穂里

    「トウキョウソナタ」の少年の将来像のような井之脇海が、桜満開の賀茂川沿いに佇むピアノを揚々と弾く。“未聴感”を表現する高いハードルを、嫌でも目を引くシチュエーションの助けも借りてクリアする軽快な序盤から、死後も残る新しい音楽を追究する異母兄弟がぶつかる、生みの苦しみに主眼が移る。それゆえ、努力家の兄との確執の末に天才肌の弟が紡ぐ楽曲こそハイライトかと期待が高まるも、サクッとはぐらかされた上、畑違いのMV風に転じる終幕には、疑問符が浮かぶ。

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