あらののはての映画専門家レビュー一覧

あらののはて

「カメラを止めるな!」のしゅはまはるみ、「イソップの思うツボ」の藤田健彦、舞台演出家の長谷川朋史らの自主映画制作ユニット「ルネシネマ」の第2弾。高校生の風子は絵のモデルをしたときの絶頂感が忘れられない。8年後にもう一度、その感覚を取り戻そうとするが……。SKIPシティ国際Dシネマ映画祭で、「高校時代の自由奔放でキュートな姿と、8年前の感情をこじらせてしまった現在のイタイ姿の風子の対比がなんとも切ない」と評された主人公・風子役には、女優・ダンサー・振付家とマルチに活躍する舞木ひと美。風子をモデルに絵を描く荒野役には井筒和幸の「無頼」や、主演映画「僕たちは変わらない朝を迎える」でで注目を集める髙橋雄祐。門真国際映画祭2020で最優秀作品賞、優秀助演男優賞、優秀助演女優賞の三冠を獲得。
  • 映画・音楽ジャーナリスト

    宇野維正

    まず、構図とアングルに並々ならぬこだわりがあることがほぼすべてのカットから伝わってくる。それが少々過剰すぎて逆にノイズとなっている局面も少なくはないが、映画としての強度には貢献していると言っていいだろう。一方で、10代の少女の特異な性癖や、高校時代から抱えてきた想いを大人になって成仏させるというモチーフやテーマは、90~00年代の国内インディーズ作品でも散々コスられてきたもので、そこに新人監督に求めるような視点の新しさは感じられなかった。

  • 映画評論家

    北川れい子

    69分と小ぶりな作品だが、タイトルにも自嘲的な隠し味があるシリアスコメディで、脚本、監督の長谷川朋史、かなり達者である。高校時代に同級生の絵のモデルをしたばかりに性的な歪みが生じてしまったヒロインの、あのエクスタシーをもう一度。が、その高校時代の彼女のシーンがほとんど逆光で、表情が見えないのがもどかしい。絵のモデルになる肝心の場面も。しかもしっかり長回し。むろん、あえてそう撮ったのだろうが、ディテールが面白いだけに、表情の変化も見たかった。

  • 映画文筆系フリーライター

    千浦僚

    最初は場面や語り口について、こんなに無駄話やボーッとした佇まいでいいの、と心配したが途中グイグイ加速して面白くなった。敏捷な動物や幼児のように、まったく読めないリズムで向きを変えたり、走り出したりする体感の映画。気取らず、高尚ぶらず、また、いまだそれを自分で自覚も咀嚼もできない風情で女性の官能の不可思議と魔を語る映画。終盤のセリフ、「何か起こると思った?」が鋭く立つ。その期待の時間こそ劇。愛と戦いの女神、金星を背負った払暁の場面がよかった。

1 - 3件表示/全3件