グリード ファストファッション帝国の真実の映画専門家レビュー一覧

グリード ファストファッション帝国の真実

ファストファッションブランドを経営し、業界トップに上り詰めたリチャード・マクリディ卿の栄光と転落、根底にあるファッションビジネスの光と闇を、イギリスの奇才マイケル・ウィンターボトムがユーモアを散りばめて描くブラックエンターテインメント。「イン・ディス・ワールド」「グアンタナモ、僕達の見た真実」で国際問題を取り上げ、それぞれベルリン国際映画祭で金熊賞、銀熊賞を受賞したウィンターボトムが、資本主義のタブーを大いに笑い飛ばしながら楽しめる快作を誕生させた。主人公リチャードのモデルは、昨年に破産申請をした「TOPSHOP」をはじめとする複数のファストファッションブランドを保有していたアルカディア・グループのオーナー、フィリップ・グリーン卿。日焼けした肌と不自然なまでに白く輝く歯という富裕層特有の外見に近づけるために肌を小麦色に塗り、付け歯を装着して役に臨んだのは、イギリスのカリスマ的コメディ俳優、スティーヴ・クーガン。ウィンターボトム監督作「24アワー・パーティ・ピープル」の出演をきっかけに監督と交流を深め、本作で7度目のタッグを組んだ。リチャードに負けず劣らず金に目がない元妻を「グランド・イリュージョン」のアイラ・フィッシャーがコミカルに演じる。「グリード」とは強欲や貪欲の意味。セレブリティの見栄っ張りな金満生活を笑いながらも、経済第一主義の社会の弊害や洋服をつくる労働者の過酷な環境に、鋭い視線を投げかけている。
  • 非建築家、美術家、映画評論、ドラァグクイーン、アーティスト

    ヴィヴィアン佐藤

    アルトマン「プレタポルテ」を彷彿させる空虚な豪華さ。コンパネ製の闘技場。ギリシャ神話やリチャード三世の歴史と同様に、現代を生きる親子の運命もまた何度も変奏させる。富める者と搾取される者との構図は、終わりない人間の業か。善悪未分化で冷静ギリギリのウィンターボトム。フーコーはギリシャ悲劇自体が裁判のイミテーションで、アゴーン(闘技)から、裁判/演劇/政治の繋がりを導いた。闘技場を裁判に見立て、断罪させる結末。鑑賞者の我々をも裁判にかけているよう。

  • フリーライター

    藤木TDC

    40代はキレキレだったのに50歳過ぎたらルーティンなコメディ屋になり下がった印象のウィンターボトム監督。今度こそはと淡い期待をもって見始めた本作もどこかで見た奇人社長盛衰記を超える内容ではなかった。なまじ途上国の低賃金や難民問題を訴えても本作レベルじゃ観客はファストファッションを無反省に買い続けるだろうし、皮肉にも映画自体が浪費の一端にさえ見える。ただこの軽快かつ嫌味なタッチでコロナ下の東京五輪騒動を黒い喜劇にして撮れないかと意地悪な夢想も。

  • 映画評論家

    真魚八重子

    誕生日パーティーの数日間をメインの時間軸にしつつ、ギラついた男の一代記のような込み入った構成はかなり成功している。主演のスティーヴ・クーガンに、「ウルフ・オブ・ウォールストリート」のディカプリオのような愛嬌がないのも、ある種クライマックスの伏線といえるだろう。移民問題は皮肉が効いているが、ファストファッションが他国の安い労働力で成り立っている搾取については、もっと物語と絡めるべき。喧噪の中の人々がコロシアムに集約されていくダイナミックさは痛快。

1 - 3件表示/全3件

今日は映画何の日?

注目記事