アウステルリッツの映画専門家レビュー一覧

アウステルリッツ

    旧ソ連出身の鬼才セルゲイ・ロズニツァが、ナチスのユダヤ人強制収容所跡地がダーク・ツーリズムに利用される現実を見つめたドキュメンタリー。記憶を社会で共有し、未来へ繋げる試みがツーリズム化した今、私たちは自らの過去といかに向き合うべきなのか。第73回ヴェネチア国際映画祭に正式出品された。
    • 映画・音楽ジャーナリスト

      宇野維正

      ダークツーリズムという今日的な題材を、フィックスされたデジタルカメラによる「観察」によって延々と映し出した作品。セルゲイ・ロズニツァ監督の視点はどこまでもアイロニックで、それは「観察」によって導き出された結果というより、最初から意図されていたものだとしか思えない。注目すべきはその精密な音響設計。ツーリストたちの雑然とした喧騒の中から徐々に浮き上がってくるガイドの声とそこで語られるエピソードは、非演出を装った本作を巧みに演出していく。

    • ライター

      石村加奈

      撮影カメラに気づいた観光客の、手を振るでも(若者が一人だけ反応)怒るでもなく、一様に無反応な態度が不気味だったが、自分もそう振る舞うのだろう。かつて囚人が吊るされた柱のレプリカの前でポーズをとる様子や、囚人の飢餓について説明を受けた直後、のんびり食事を摂る人々の姿に加え、移動を促すガイドの「5分後に食事できますからいまは我慢して!」という言葉まできっちり組み込む、編集の思惑通り、様々なことをわが事のように考えさせられる。傍観を許さぬ迫力に戦慄。

    • 映像ディレクター/映画監督

      佐々木誠

      ガイドの話を聞かないで、ふざけ合うカップル、自撮り棒を使って記念撮影する家族――観光地でよく見る風景だが、そこはナチスの強制収容所の跡地で、ガイドが説明しているのは、その場で拷問され殺された囚人たちについてだ。全篇、白黒加工し完璧に計算された構図の定点カメラが、見学する観光客の様子を捉えている。「場所」を軸に、撮る者と撮られる者、そしてそれを観る者の視点が時空を超えて交差する。皮肉と希望が入り交じったダークツーリズムの現実、その断片。

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