タイトル、拒絶の映画専門家レビュー一覧

タイトル、拒絶

第32回東京国際映画祭で主演の伊藤沙莉が東京ジェムストーン賞を受賞した、山田佳奈監督による長編デビュー作。とある雑居ビルでデリヘル嬢たちの世話係をするカノウ。そこに住むオンナたちは、それぞれが抱える事情に抗いながらも力強く生きようとしていた。共演は「凪待ち」の恒松祐里、「デイアンドナイト」の佐津川愛美、「ハッシュ!」の片岡礼子。
  • 映画評論家

    北川れい子

    デリヘル嬢の楽屋裏。既視感のある題材だが、もとは山田佳奈監督の劇団の舞台劇だとか。なるほど半裸姿で、“私の人生クソだった”と観客に向けてぶっきら棒に語る伊藤沙莉を狂言回しにした本作、同時並行的に何人もの女たちのそれぞれの状況が描けるので、題材として刺激的。そして見えてくる女だけの職場にありがちな(いや男だけの職場も同じか)嫉妬や競争心、コンプレックスに自虐性。アッケラカンと性を売る女も出てくるが、女の生きるパワーよりサラシ者的なのが気になる。

  • 編集者、ライター

    佐野亨

    冒頭の切実なモノローグから、伊藤沙莉の表情と口跡に引き込まれた。俳優の主体性が映画を動かすとはこういうことを言うのだろう。山田監督の演出にも力が入っているが、おもな舞台となるデリヘル嬢たちの待機部屋における空間演出は、俳優たちの演技の迫真(それじたいは見ごたえがあるのだけれど)を演劇的な虚構性の裡に回収してしまうきらいがある。しかし、見かけの「当事者性」のうえに胡坐をかいている作品が目立つ昨今、生きた人間のいとなみを注視する誠実さは買いたい。

  • 詩人、映画監督

    福間健二

    デリヘルの話。山田監督がかつて舞台でやったという群像劇。練られてもいるだろうが、空気がだいぶ古めに感じられる。この場合、古めなのは、欠点とばかりは言えない。見ながらずっと思ったのは、半世紀以上前の溝口健二「赤線地帯」と比べてどうだろうということ。表現力、とくに画面の奥行きでは及ばないとしても、こちらにも、言えていると思わせるセリフと世相の奥にあるものを抉る強度がある。漫画的な誇張を、どの人物にも用意されている正直な言い分が、空疎にしていない。

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