十二単衣を着た悪魔の映画専門家レビュー一覧
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映画評論家
北川れい子
この初夏に放送されたNHKの夜ドラ『いいね! 光源氏くん』は源氏が現代にタイムスリップしてくるというコメディで、それなりに笑えた。本作はその逆の設定で、平安時代に迷い込んだヘタレ青年が、ひょんなことから活躍(!?)の場を見つける話で、それもかなりインチキ。が青年を利用して皇位争いに勝負を懸ける皇妃の悪賢さはなかなか小気味よく、いっそストレートに皇妃だけの話に絞ってほしかった。原作者も黒木監督も、この女性の存在こそが作品の本命に違いないのだから。
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編集者、ライター
佐野亨
滑舌のわるさをひと笑いのネタにする冒頭から嫌な予感がただようが、日雇い派遣差別や学歴差別を思わせるダイアローグが次々に飛び出し、では本筋においてそうした価値観が相対化されるのかと思いきや、個人のコンプレックスの解消というレベルに問題が矮小化されてしまう。結局、現代日本映画の悪癖である安易なタイムトラベルものを利用して源氏物語トリビアを開陳してみただけで、それが現代に対してどういう意味をもつのかが考え抜かれていない。伊藤健太郎は好演しているが。
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詩人、映画監督
福間健二
周到にやればいろいろとできそうに思える企画だが、まず、現在から源氏物語の世界に入った驚きがユルイ。しまりがない感じ。千年という時間差についての発見がないのだ。ひとつの手は、平安時代を描いたかつての名作の影を意識して入れることだろう。黒木監督、そういう映画愛とは無縁のようだ。なにか言おうとしている存在は三吉彩花演じる弘徽殿女御。主人公の内面を、その妻となる伊藤沙莉演じる倫子とともに動かしたと納得させるには、セリフも十二単衣を着た姿も単調すぎる。
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