在りし日の歌の映画専門家レビュー一覧

在りし日の歌

夫婦を演じたワン・ジンチュンとヨン・メイが、第69回ベルリン国際映画祭で最優秀男優賞&女優賞を受賞したヒューマンドラマ。1980~2010年代を背景に、事故で息子を亡くした夫婦が、乗り越えられない悲しみと罪悪感を抱きながら年を重ねていく姿を映し出す。監督は「我らが愛にゆれる時」のワン・シャオシュアイ。
  • 映画評論家

    小野寺系

    文革後もまだ引き締めが続いていた日々から30年間。真面目な庶民の立場で描かれた、中国の変遷していく様は興味深く観ることができた。とはいえリアリティの追求からか、人情ドラマに頼るわりに登場人物の行動が共感しづらく、好感を持てる部分が少ないまま進んでいくため、感慨深さがいまいち薄いのが難点。カイコーやイーモウの、時代を描く群像劇の傑作と比べては酷だが、同じく第六世代のジャ・ジャンクー「山河ノスタルジア」の後発としてもゆるい出来に感じられる。

  • 映画評論家

    きさらぎ尚

    ドラマの背景を一人っ子政策という中国の政策に置きながら、主題を世界に普遍の広がりをもつ人間ドラマに仕上げたことを賞賛したい。時の政権、政策で国が姿・形を変えても人格を保ち生き続ける個人の、なんと気高く、美しいことか。二人の俳優は、主題を体現するとてもいい顔をしている。過去と現在を往来する大胆だが滑らかな構成・演出に、二人は確信を持って応えている。わけてもヨン・メイの穏やかだが意志の籠る演技は、不穏さが増す今の世に差す一筋の希望とも思える。

  • 映画監督、脚本家

    城定秀夫

    改革開放と一人っ子政策から生まれた苦難を強いられる中国の市井の家族の30年をつぶさに描いた、慎ましやかだが、人間のあらゆる感情が描かれた、この上なく豊潤な映画で、時の流れの残酷さと優しさを感じる終盤では涙が止まらなかったし、いささか俗に寄ってしまっている演出も見受けられるのだが、それはエモーションを作動させるためには避けられない要素であり、そういうものから逃げずに真正面から向き合っている姿勢こそが、この映画を純粋で力強いものにしているのだろう。

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