HOKUSAIの映画専門家レビュー一覧

HOKUSAI

『冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏』などで知られる江戸時代の天才絵師・葛飾北斎の生涯を描いた時代劇。腕は確かだが、傍若無人な振る舞いが災いし、貧しい生活を送る若き日の北斎は、歌麿、写楽を見出した版元・蔦屋重三郎と出会い、才能を開花させるが……。出演は「泣くな赤鬼」の柳楽優弥、「記憶屋 あなたを忘れない」の田中泯、「のみとり侍」の阿部寛。監督は『相棒』シリーズなどを手掛ける橋本一。
  • 映画評論家

    北川れい子

    主人公が同じだからといって、脚本も監督も俳優も異なる旧作と比較してあれこれ言っても意味ないことは承知だが、それでも新藤兼人監督「北斎漫画」のタフで飄々とした緒形拳=北斎を思わずにはいられない。今回の4章仕立てで描かれる絵師北斎は、時代の波ごとに、画風を変えながら絵を諦めないのだが、田中泯扮する晩年はともかく、野心まみれの青年期は騒々しいだけ。しかも重要な人物役の俳優陣が客寄せで呼んだように厚みがない。万事が徒花的な野心作!?でもったいなや。

  • 編集者、ライター

    佐野亨

    男も女もツルンと現代的な顔しか登場しないのは昨今の時代劇に共通する難題で、むしろその現代味を逆手にとった異化効果を愉しみたいところだが、この映画は演出も演技もことごとく古くさい見得芝居に終始しており、えらく安っぽい。それとこれは前々から気になっていることだが、日本の映画人には、田中泯さえ出しておけば、という悪癖があるのではないか。今回のようにツルン顔のなかに田中泯を置くと、むしろ田中泯らしさが悪目立ちして重力の均衡が崩れると思うのだが。

  • 詩人、映画監督

    福間健二

    浮世絵の表現の生成と江戸時代の文化の活力、どうやれるか。「絵は世の中を変えられる」「海のむこうに未知の世界がある」「描きたいものを描く」といった反権力、自由、欲望の肯定と封建制の間に人物を息苦しく閉じ込めているのは、工夫がなさすぎる。謎の写楽は少年。少年期から活躍した柳楽優弥演じる青年の北斎がそれに焦る。老年の粘る北斎は田中泯が強引に体でやりきり、彼を支える娘お栄には本作を発案した脚本家河原れん。等々、橋本監督はいわば妙運を引きよせてはいる。

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