没入感に満ちた舞台『千と千尋の神隠し』の東京公演が開幕! 4月末から約4カ月間、ロンドンでも上演



2022年に初演、昨年再演も果たした舞台『千と千尋の神隠し』が、3月11日の東京・帝国劇場を皮切りに全国ツアーを開幕。本記事では、翌日12日に行われたゲネプロ(上白石萌音が主人公・千尋を演じた)の様子を紹介する。

 

千尋役・上白石萌音

 

2001年に公開された宮﨑駿監督の「千と千尋の神隠し」は爆発的なヒットを記録し、2003年には米国アカデミー賞長篇アニメーション映画部門賞を受賞するなど、その壮大かつ独創的な世界観で日本のみならず世界中のファンを魅了してきた。そんな不朽の名作が、ミュージカル『レ・ミゼラブル』などを手掛けた演出家ジョン・ケアードにより舞台化され、2022年の初演では全国公演のチケットが開幕と共に完売、千秋楽の配信が行われるほどのヒットとなった。2023年には再演もされ、2024年は国内ツアー中に、イギリス・ロンドンでの初の海外公演も。千尋役には橋本環奈、上白石萌音に加え、川栄李奈、福地桃子が新参加。4人の千尋を中心に、さらにパワーアップした舞台を披露する。

 

千尋役・橋本環奈(左)とハク役・醍醐虎汰朗

 

10歳の少女・千尋が、両親と引っ越し先に向かう途中で不思議なトンネルを見つけ、八百万の神々が集う異世界に迷い込んだことから物語は始まる。主人公・千尋を演じる上白石萌音が舞台に現れると、まるで映画から抜け出してきたような存在感に一瞬で目を奪われる。人間が来てはならないその世界に千尋たちが足を踏み入れると、巨大な油屋のセットが顔を出し、さまざまな衣裳に身をまとった神様が現れる。辺り一面が不思議な世界に包まれると、ワクワクは早くも最高潮に。千尋が最初に出くわす悪夢となる、両親が豚の姿に変わっていくあの恐ろしいシーンも、舞台ならではの演出方法で魅せていく。絶妙な持ち味で宮崎吐夢が釜爺をコミカルに演じると、羽野晶紀がパワフルに湯婆婆を体現、元木聖也によるパペットで表現される青蛙の愛らしさなど、再現度の高い演技合戦が次々に展開され、ファンタジーとリアルの絶妙なバランスで物語がテンポよく進んでいくさまには、没入感に満ちたライド感もあいまって、舞台上のチームの一体感が心地良いほどに伝わってくる。

 

湯婆婆役・羽野晶紀

 

“千尋”が実在するとしか思えないほど、その本質を体現した上白石萌音、千尋に救いの手を差し伸べながらも、自身の罪に翻弄されるハクの憂いを表現した増子敦貴(GENIC)、千尋を導き続ける頼もしい先輩・リンを演じる華優希(母親と二役)といった、本作を彩るキャラクターたちすべての生き生きとしたさまが素晴らしい。3つの頭が飛び回る“頭(かしら)”を型破りな発想で体現した五十嵐ゆうやの底知れぬエネルギー、そしてカオナシの持つ孤独感や哀しさを指先にまで込めた小㞍健太らダンサーたちの独特な表現には、目を奪われるだろう。

 

釜爺役・宮崎吐夢

 

全篇を通して舞台ならではのアイデアを駆使した表現方法にも唸らされる。雨の中、重い体を引きずりながら湯屋にやってくる“オクサレ様”が浸かるお風呂の水のダイナミックな表現や、その神様の体からトゲを抜き取る大所帯でのシーン、そして千尋とハクが空を舞うクライマックスシーンなど、映像での表現を舞台上で新たに生まれ変わらせたシーンの数々には、決して映画を再現するだけではないオリジナリティが隅々に感じられる。

また、舞台中央に構える全高5メートルの巨大な油屋のセットは、本作のもうひとつの“顔”とも言えるだろう。360度回転する油屋は、セットが回るたびに景色を変えていき、千尋がさまざまな試練を乗り越えていく成長過程を立体的に見せていく。千尋が精神的に強くなっていく姿を身近で見守りながらも、次々と展開されるアドベンチャーの臨場感に観客は息つく暇もないほどだ。それでいて、物語が転調を見せるエモーショナルな部分も忘れていない。油屋の人々が繰り出す大団円で華やかな展開が続いたのちには、千尋がカオナシたちと電車に乗る旅路のシーンに見る物悲しい演出には思わず胸が締め付けられる。そんな感情の緩急を際立たせる生オーケストラの演奏も素晴らしく、音楽にも酔いしれることは間違いない。

 

千尋役・福地桃子(左)とハク役・増子敦貴 (GENIC)

 

パペットを操る役者も含めチーム一丸となって表現する作品の世界観や、舞台ならではの試行を凝らした表現方法に注目しながら、この没入感をぜひ劇場で体験して欲しい。

舞台『千と千尋の神隠し』は3月30日まで帝国劇場にて。その後名古屋・御園座、福岡・博多座、大阪・梅田芸術劇場メインホール、北海道・札幌文化芸術劇場hitaruで上演される。

文・制作=キネマ旬報社

 

舞台 『千と千尋の神隠し』 

3月11日(月)~30日(土) 【東京】 帝国劇場
4月30日~8月24日 【ロンドン】ロンドン・コロシアム
4月7日(日)~4月20日 (土) 【愛知】御園座
4月27日(土)~5月19日(日) 【福岡】博多座
5月27日(月)~6月6日 (木) 【大阪】 梅田芸術劇場メインホール
6月15日(土)~6月20日 (木) 【北海道】札幌文化芸術劇場 hitaru

千尋:橋本環奈、上白石萌音、川栄李奈、福地桃子
ハク:醍醐虎汰朗、三浦宏規、増子敦貴 (GENIC)
カオナシ:森山開次、小㞍健太、山野 光、中川 賢
リン・千尋の母:妃海風、華 優希、実咲凜音
釜爺:田口トモロヲ、橋本さとし、宮崎吐夢
湯婆婆・銭婆:夏木マリ、朴 璐美、羽野晶紀、春風ひとみ
兄役・千尋の父:大澄賢也、堀部圭亮
父役:吉村 直、伊藤俊彦
青蛙:おばたのお兄さん、元木聖也
頭:五十嵐ゆうや、奥山ばらば
坊:武者真由、坂口杏奈

原作:宮﨑駿
翻案:ジョン・ケアード
共同翻案:今井麻緒子
オリジナルスコア: 久石 譲
音楽スーパーヴァイザー・オーケストレーション・編曲:ブラッド・ハーク
音楽スーパーヴァイザー補・オーケストレーション・Ableton プログラミング:コナー・キーラン
美術:ジョン・ボウサー
パペットデザイン・ディレクション:トビー・オリエ
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