略歴 / Brief history
【ブラジルの光と影をスタイリッシュに映し出す俊英】ブラジル、リオ・デ・ジャネイロの生まれ。現地ポルトガル語の発音に近い“ヴァルテル・サレス”の表記も用いられることがある。銀行家・外交官の父を持ち、幼少期の一部をヨーロッパで過ごすなど、さまざまな国の映画を観る機会に恵まれた。生地での就学を経て、映画人を多く輩出する米国・南カリフォルニア大学も卒業。1980年代の中頃よりドキュメンタリーやCMの製作に携わる。当時は日本の伝統と現代性の軋みをテーマにしたテレビ・ドキュメンタリーも手がけ、来日して黒澤明などと接触したという。91年、米国との合作によるサイコスリラー「殺しのアーティスト」で長編監督デビュー。共同監督による第2作はブラジル映画の作新として注目され、多数の映画賞も獲得した。サレスの名を世界に広めたのは、98年のロード・ムービー「セントラル・ステーション」。本作でベルリン映画祭金熊賞などを受賞し、米アカデミー賞の外国語映画賞にもノミネートされた。2001年の「ビハインド・ザ・サン」は、前述作と異なる詩的なタッチで神話のような世界を描き、ヴェネチア映画祭の観客賞を受賞。続く「モーターサイクル・ダイアリーズ」(03)も世界規模で賞賛される。04年には中田秀夫の「仄暗い水の底から」(02)をリメイクした「ダーク・ウォーター」でハリウッドに進出。しかしハリウッド式の大規模な映画作りに馴染めず、ふたたびブラジルでの映画製作に戻った。08年の「LinhadePasse」は、父親が異なる4人の息子たちとその母のブラジル家庭を、ドキュメンタリータッチで描いた人間ドラマ。現場では役者も意見を出し合える自由な映画作りをめざしたという。【ブラジル映画の再興を担う】50年代、ブラジル映画ではイタリアのネオリアリスモに倣った“シネマ・ノーヴォ”の映画運動が興る。これは60~80年代の軍事政権下に、映画公社による別の潮流に取って代わられ、やがて新政権下の90年には公社の助成も停止。ブラジル映画は壊滅状態に陥った。サレスの第1作はそんな状況下で国の支援なしに登場し、映画界に新風を吹きこむことになる。やがて、94年の体制変化で映画産業は回復を始め、ほぼ同時期に第2作が国内で注目、第3作は世界に躍り出て、とサレスの歩みはブラジル映画の復興と重なっていく。シネマ・ノーヴォを意識しつつ出発し、社会・政治・歴史の問題をドキュメンタリータッチのわかりやすいドラマ形式で、感情豊かに描き出すのがサレスの特徴であった。「セントラル・ステーション」「モーターサイクル・ダイアリーズ」などではロードムービーのスタイルを採り、放浪を通じてラテンアメリカのアイデンティティを追求することも、サレス映画のテーマのひとつとされた。成功を得てからは製作にも乗り出し、若手の育成などブラジル映画界に大きな貢献をしている。
映画専門家レビュー
今日は映画何の日?
NEW今日誕生日の映画人 1/26
- ポール・ニューマン(1925)
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ミーアキャット
「ディープ・ブルー」「アース」の制作陣による動物ドキュメンタリー。カラハリ砂漠を舞台に、野生のミーアキャットの成長を追う。監督は、ディスカバリー・チャンネルやアニマル・プラネットの番組製作を経て、本作が長編映画初監督となるジェームズ・ハニーボーン。ナレーションは名優ポール・ニューマン。 -
マイ・シネマトグラファー
2度のアカデミー撮影賞を受賞したハスケル・ウェクスラー。彼の実子のマーク・ウェクスラーが、父の伝説と向き合い真の姿を見出そうとして撮ったドキュメンタリー。ジョージ・ルーカス、マイケル・ダグラス、ジュリア・ロバーツ、などの俳優、監督のインタビューを通して伝説のシネマトグラファーの真実を明らかにする。
NEW今日命日の映画人 1/26
- エイブ・ヴィゴーダ(2016)
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アンダーワールド(1996)
自分と父親を陥れた真犯人を見つけるため、正体不明の謎の男に接近する青年のパラノイアックな復讐劇を描いた異色サスペンス。本作の後「マッド・ドッグス」(日本では98年1月公開)で監督デビューも果たしたヴェテラン俳優ラリー・ビショップ(本作で助演も)の脚本を、「スター・ウォーズ」(美術監督としてアカデミー装飾部門最優秀賞を受賞)、『The Sender』(日本未公開、監督作)のロジャー・クリスチャンの監督で映画化。美術はアキ・カウリスマキ監督作品(「ラ・ヴィ・ド・ボエーム」ほか)でも知られるジョン・エブデン。出演は「ネオン・バイブル」のデニス・レアリー、「アンカーウーマン」のジョー・モントーニャ、「フューネラル」のアナベラ・シオラ、「ゴッドファーザー」のアベ・ヴィゴダ、「シリアル・ママ」のトレイシー・ローズほか。 -
シュガー・ヒル
ニューヨーク・ハーレムの暗黒街で、ドラッグ売買のトップにのし上がった2人の兄弟の葛藤を軸に展開する、愛と暴力に彩られたブラック・ムービー。監督はキューバ出身で、カンヌ国際映画祭で上映された「クロスオーバー・ドリーム」やテレビ映画「心臓が凍る瞬間」(日本では劇場公開)などの作品があるレオン・イチャソ。脚本はバリー・マイケル・クーパー。製作は「ラブ・クライム 官能の罠」のルディ・ラングレイスと、グレゴリー・ブラウン。エグゼクティヴ・プロデューサーは「ザ・コミットメンツ」のアーミヤン・バーンスタインとトム・ローゼンバーグ、マーク・エイブラハムズの共同。撮影は「ディープ・カバー」「カリフォルニア(1993)」のボージャン・バゼリ。音楽はテレンス・ブランチャードで、ジャズ、ファンク、ソウル、ラップ、ヒップホップ、ブラック・コンテンポラリー、アフリカン・ミュージックからゴスペルに至るまで、さまざまなブラック・ミュージックの挿入曲が全編に流れる。美術は「再会の時」のマイケル・ヘルミー、主人公兄弟の人物造形や作品世界の上でも重要な要素を占める衣装は、「ディック・トレイシー」のエドゥアルド・カストロで、ヴェルサーチ、ヨージ・ヤマモトなどのスーツが使用されている。主演は「ニュー・ジャック・シティ」「デモリションマン」「ドロップ・ゾーン」など出演作が相次ぐウェズリー・スナイプスと、「ストリーマーズ 若き兵士たちの物語」『ファイブ・ハートビーツ』(V)のマイケル・ライト。「クロウ 飛翔伝説」のアーニー・ハドソン、「ビバリーヒルズ・コップ3」のテレサ・ランドルらが共演。