彼女はなぜ、猿を逃したか?の映画専門家レビュー一覧

彼女はなぜ、猿を逃したか?

「東京卍リベンジャーズ」シリーズなどの脚本家・高橋泉と、俳優・監督の廣末哲万による映像ユニット『群青いろ』によるサスペンス。ルポライターの優子は動物園の猿を逃し誹謗中傷を受ける女子高生について取材するうちに、精神のバランスを崩していき……。高校生が動物園の猿を逃した実際の出来事をモチーフに、高橋が脚本を手がけ自ら監督。「FIT」「雨降って、ジ・エンド。」といった『群青いろ』作品常連の新恵みどりが取材対象の女子高生にのめり込むルポライター・優子を、廣末哲万が夫・奏太に扮する。2022年第23回東京フィルメックス、2023年第15回下北沢映画祭上映作品。
  • 文筆家

    和泉萌香

    自分が起こした事件を挑発的に切り取られ、誹謗中傷に晒された女。事実のねじ曲げなどのメディア批判を含みながら、世間の存在はあくまでも場外に、物語はキャメラがあちらこちらに配置された灰色の迷路のような囲われた場所で、個人の「生き直し」が展開される。二転三転したのちに空はひらけてゆき、高揚感ある青春映画の様相をみせるも、ギミック倒しで強引な印象が拭えず。映画監督の自己弁護にも聞こえる台詞も悪目立ち。

  • フランス文学者

    谷昌親

    事件を起こした少女と映画監督志望の少年、少女を取材するルポライターの女と映像関係の仕事をしているその夫、この二組の男女の関係が、現在と過去、現実と映像のあいだを往還しつつ徐々に明らかになっていく過程はスリリングだ。しかし、パズルのピースをうまく散りばめ、現代的な意匠をほどこすことに注意が向き過ぎていて、人物も作品世界もただ画面の表層を流れていく。少女が見た朝焼けや少年が森の中で撮影した少女の姿の前で、もっと立ちどまってみるべきだったのではないか。

  • 映画評論家

    吉田広明

    動物園の猿を女子高生が逃がした事件を報じた記事がフェイクなのか真実なのかを巡る話なのかと思って見ていると、互いに矛盾というか整合性の取れない映像が重なってきて、見る者が疑心暗鬼に捉われる。事件の真相の不確定性が、映像そのものの不確定性にすり替わってくる。合わせ鏡のシーンがあるが、これがこの作品の中心紋ということになる。ただ、入れ子構造を繰り返しているため、どれも本気で受け取れなくなり、ラストの高校生たちの瑞々しい場面も眉唾で見てしまうのが残念だ。

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