戦雲 いくさふむの映画専門家レビュー一覧

戦雲 いくさふむ

「標的の村」「沖縄スパイ戦史」でキネマ旬報ベスト・テン文化映画第1位を獲得した三上智恵監督が、8年かけて沖縄・南西諸島の島々を取材したドキュメンタリー。日米両政府の主導のもと急速な戦力配備が進む現状や、かけがえのない島々の暮らしを映し出す。タイトルにつけられた“戦雲”は、本作に出演している山里節子が八重山を代表する叙情詩『とぅばらーま』に乗せて歌った“また戦雲が湧き出してくるよ、恐ろしくて眠れない”という歌詞から取っている。
  • 文筆家

    和泉萌香

    棄民亡国、の四文字がぴったりな国だ。三上監督もおっしゃる通り、喜怒哀楽の真ん中の二文字、怒と哀ばかりが胸を占める。「こうやって、私たちを疲れさせようとしている」……。住民の方々の反対、抵抗運動のあと、淡々と画面に現れる数年後の数字。繰り返される叫びの圧殺。だが、よく簡単に「絶望」と言ってしまう私は自分を恥じた。映画に登場する方々の声、皆の祈りが、この2時間が過ぎたあとも、さらにつらなり、さらに大きな祈りにするために、広く上映されることを切望する。

  • フランス文学者

    谷昌親

    沖縄の厳しい状況は、それなりに理解しているつもりでいたが、「戦雲」を観ると愕然としてしまう。南西諸島に次々と自衛隊の基地が作られ、ミサイル配備が着々と進んでいるのだ。沖縄の植民地化にほかならず、同時に、日本そのものがいつのまにか臨戦態勢に置かれている……。三上智恵監督の執念を感じさせる取材の結晶だが、基地問題ばかりでなく、与那国島でのカジキ漁など、南西諸島に住む人びとの日々を描くことで、このドキュメンタリー映画に作品としての厚みももたらしている。

  • 映画評論家

    吉田広明

    台湾有事を口実に着々と軍事基地化されていく沖縄、南西諸島の現状報告。既成事実で住民を疲弊させる自衛隊=政府、住民投票さえなかったことにして追従する地方議会。実際の有事に備え隊員用シェルターは用意するが、住民避難は保証しない。この島々の住民を守れない/守る気がないとは、つまり日本国民を守れない/守る気はないということだろう。「もしトラ」になれば米は棄日、梯子を外されて矢面に立たされた日本国の棄民は現実化する。思想なき国防が招く末路を考えさせる一作。

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