12日の殺人の映画専門家レビュー一覧

12日の殺人

「悪なき殺人」のドミニク・モルが監督、2022年第48回セザール賞作品賞・監督賞など6冠に輝いたスリラー。10月12日、女子大生のクララが焼き殺される。次々と容疑者が捜査線上に浮かぶも事件はいつしか迷宮入りし、ヨアン刑事は事件の闇に飲み込まれていく。事件にのめり込んでいく刑事ヨアンを「悪なき殺人」にも出演しているバスティアン・ブイヨンが、ベテラン刑事マルソーを「RAW 少女のめざめ」のブーリ・ランネールが演じる。2022年第75回カンヌ国際映画祭プレミア部門出品作品。第48回セザール賞にて作品賞・監督賞・助演男優賞(ブーリ・ランネール)・有望若手男優賞(バスティアン・ブイヨン)・脚色賞・音響賞を受賞。第28回ルミエール賞にて作品賞・脚色賞を受賞。
  • 映画監督

    清原惟

    女性であることが理由で殺される、「フェミサイド」について取り扱った作品。刑事ものではあるが、事件の解決が主旋律というよりは、性別を理由に犯罪にあってしまうことや、女性が晒されている偏見や視線を中心にして事件を描いている。女性だけでなく、男社会である警察内部も描くことで、男性の考え方も相対化している。捜査する刑事たちの個人的な悩みを丁寧に描く姿勢もよかった。男性たちが成し遂げたことは、自転車で山に行けたことくらいなのが、現実という感じがした。

  • 編集者、映画批評家

    高崎俊夫

    往年のシャブロルがスモールタウンを舞台に撮った「肉屋」などのミステリの名作によく似た感触がある。若い女性の焼死体が発見され、被害者の奔放な男関係が露わになるも事件は迷宮入りに。捜査官ヨハンは容疑者も愚昧かつ謎だらけでと途方にくれるが、殺人という行為を人間存在の不可解さの証しと捉える視点が光る。時折、ヨハンが夜間、無人の競輪場を黙々と自転車で走行するショットが挿入されるが、彼自身が抱える不分明な闇を払拭しようとする捨て身のアクションのようでもある。

  • 映画批評・編集

    渡部幻

    「事件にとりつかれることがあります。理由はわからないが、事件が頭から離れなくなり……」「のみ込まれる?」「あるいは“壊される”。中から蝕まれる」。男と女の溝に迫る未解決事件ミステリ。16年の実話に着想を得て、よく書かれ、演出され、丁寧に演じられている。ドミニク・モル監督は「悪なき殺人」も優秀だったが、今度はさらに上質だ。女性殺しを捜査するフランスの刑事たちが男性ばかりであったことに着目しており、沈着な主人公の葛藤を伝えた主演のバスティアン・ブイヨンの無表情がいい。

1 - 3件表示/全3件

今日は映画何の日?

注目記事