水平線(2023)の映画専門家レビュー一覧

水平線(2023)

俳優・小林且弥が「凶悪」で共演したピエール瀧を主演に迎え、初監督を務めた人間ドラマ。震災で妻を亡くした真吾は散骨業を営みながら、福島で娘の奈生と暮らしている。ある日、かつて世間を賑わせた殺人犯の遺骨が持ち込まれ、真吾は苦しい選択を迫られる。出演は、「青葉家のテーブル」の栗林藍希、「夜を走る」の足立智充。
  • 文筆家

    和泉萌香

    冒頭、ラジオが流れる走行シーンに思わず佐向大「夜を走る」を想起。撮影も同じ渡邉寿岳によるもので、夜から朝にかけての船上からの眺め、暗闇に揺らめく青い灯りなどをとらえるカメラが凜として素晴らしい。「夜を走る」は死体を出発点に男たちの物語が動き出すが、本作は不在を中心に男の車が悲しくもぐるぐるとさまよう。が、悪徳ジャーナリストやスナックに通う父親=主人公と台詞含め男性登場人物たちが、肝心の不在以上の虚しさと共に紋切り型かつ簡略化されているようにも。

  • フランス文学者

    谷昌親

    散骨業を営む真吾という男の物語で、彼は福島の海辺の町に住む元漁師であり、身近な存在を津波で海にさらわれている。これだけでも充分に複雑な境遇だが、その真吾のそれなりに穏やかな日々を乱すような事件が起きるのだ。なかなか重厚なテーマを、これが初メガホンの小林且弥監督が力強く演出し、俳優陣もそれに応えている。それぞれのシーンは観客の胸に迫るものがあるはずだ。しかし、個々のシーンが突出しすぎるのか、シーンとシーンが有機的に結びついていかないのが惜しまれる。

  • 映画評論家

    吉田広明

    なぜ主人公が散骨業を営んでいるのか、通り魔殺人犯の遺骨を巡ってのジャーナリスト、娘らとの確執からその理由が明らかになってゆく。何より、ごく普通のおっさんが倫理的問題にいかに処するか、その決意を淡々と描写を積み重ねて説得的に描いており、おっさんがカッコよく見えてくる。散骨に至る理由は、残された者(殺人犯遺族のみならず自分たち父娘含め)の未来のためではあるが、誰であれ鎮魂はされるべきではという観点まで突き詰めれば宗教的次元まで行けたのだがとは思う。

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