辰巳の映画専門家レビュー一覧

辰巳

「ケンとカズ」の小路紘史監督が8年ぶりに撮り上げたジャパニーズ・ノワール。裏稼業で働く辰巳は、ある日元恋人・京子の殺害現場に遭遇し、一緒にいた京子の妹・葵をなんとか助けだす。姉を殺された葵は犯人に復讐することを誓う。葵に振り回されながらも辰巳は復讐の旅に同行することになり……。出演は「ONODA 一万夜を越えて」の遠藤雄弥、「わたしの見ている世界がすべて」の森田想。第36回東京国際映画祭「アジアの未来」部門正式出品作品。
  • 文筆家

    和泉萌香

    歯車の部品が転がった、車のはらわたもはみ出る整備工場で、文字通り彼彼女らの体液も飛び散り絡み合い、肌のきめもすべて太陽にあぶり出され、暴力から発せられる汚い言葉が飛び交う。感傷や愛情にからめとられることなく、?き出し(になりすぎるくらい)のエネルギーをみなぎらせたまま、そのエネルギーのままに動き続け、穏やかではないカメラもここは、と揺るぎなくとらえるふたりの顔。血みどろのはて、海や草むらと同様にさらされる、人間の肌が湛える確かな美しさを喚起する。力作。

  • フランス文学者

    谷昌親

    日本映画には珍しいハードなノワール物だ。水辺の街の無機質さが人物たちの非情な生き方に重なり、陰影のある独特の虚構世界が作り上げられている。物語としては、「レオン」の日本版といった感じだが、少女の年齢が高いこともあり、ただ守ってもらうだけの存在でないあたりもおもしろい。自主制作でジャンル物を手がけ、しかもこの完成度になるということに驚かされるが、すぐれたジャンル映画を参考にしつつ、自分の求める世界を妥協せずに追求できたということなのかもしれない。

  • 映画評論家

    吉田広明

    やくざの上前をはねた金を巡り、巻き込まれて死んだ姉の仇を撃とうとする妹に、同じやくざの一員で死んだ姉の元彼であった男が協力するという構図。主人公の男は自分が主体的に動くというより、受動的に引きずられるわけだが、その理由はあくまで情動であるという点に本作をノワールとする根拠はあるだろう。姉の断末魔の長い場面の痛ましさ、殺しが快感になるという職業犯罪者に対し、殺す度に吐く妹の姿が、死の重さを感じさせるだけに、主人公の情動は説得的になっている。

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