クライムズ・オブ・ザ・フューチャーの映画専門家レビュー一覧

クライムズ・オブ・ザ・フューチャー

デヴィッド・クローネンバーグ監督とヴィゴ・モーテンセンが「危険なメソッド」に続き4度目のタッグを組んだSFホラー。人類は人工的な環境に適応するように進化。体内で新たな臓器が生み出されるソールは、臓器にタトゥーを施し摘出するショーを繰り広げる。臓器を生み出すアーティストのソール役にヴィゴ・モーテンセンを、パートナーのカプリース役に「007/ノー・タイム・トゥ・ダイ」のレア・セドゥを、二人を監視する政府機関のティムリン役に「スペンサー ダイアナの決意」のクリステン・スチュワートを据え、人類の進化をテーマに描く。2022年第75回カンヌ国際映画祭コンペティション部門出品作品。1970年製作のクローネンバーグ監督作「クライム・オブ・ザ・フューチャー/未来犯罪の確立」とは原題が同じであるが、作品内容のつながりはない。
  • 映画監督

    清原惟

    クローネンバーグの狂気が静かに爆発していた。痛みがエロティシズムであるというのであればわかりやすいが、そうでなく痛みのない世界で身体を傷つけ合うことの快感は、一体どんな感覚なのか。観た後もずっと考えている。奇抜な前提の世界を成り立たせているのは、俳優たちの演技のとてつもない強度だった。一体どんな演出をしたらあんなことになるんだろうか。人類の未来への鋭い示唆によって、生き物であることの絶望と希望を同時に恐ろしいまでに見せつけられた。

  • 編集者、映画批評家

    高崎俊夫

    「クラッシュ」の車体同士の衝突による痙攣的な快楽を筆頭にクローネンバーグのメタリックなものへの偏愛は止まるところを知らない。〈人類の進化についての瞑想〉なるお題目を掲げた本作もヴィゴ・モーテンセンの胸部にメスが入り、内臓器が蠢くさまを見つめるレア・セドゥが身悶えし、喘ぐ光景にこそエクスタシーを感じてしまう。手術を性行為そのものと捉え、パフォーミング・アートとして喧伝し、冷え冷えとした官能性を画面に塗りこめてしまう力業に感嘆する。

  • 映画批評・編集

    渡部幻

    肉体と精神、医学とアートのサブカルチュア、アンダーワールドの陰謀世界は老奇才の“旅の集大成”といってよいが、同時に環境問題、産業廃棄物と摂食障害、不明な臓器の成長とその摘出をめぐる、より2020年代的もしくは未来的な“肉体と精神の現実”が練り込まれている。官能と死も欠かせないが、ヴィゴとレアの関係が「老化と介護」のメタファーとして機能している点が最もエロティック。「ザ・フライ」で先取りしたテーマだが、2人の選択に老監督の覚悟と境地を想像してみたくなった。

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