ウィ、シェフ!の映画専門家レビュー一覧
-
米文学・文化研究
冨塚亮平
未成年の移民という題材の重さを決してごまかさず随所に強調しながら、それでも誰が見ても笑って映画館を出られるコメディに落とし込んだ脚本や構成にまず唸らされる。自らの仕事に強い誇りとこだわりを持つ料理人カティの頑なさは、同様に頑固な施設長や少年たちと本気でぶつかり合うからこそ、少しずつ解きほぐされていく。その過程がカティと少年たちの共同作業のあり方やメニューの変化としても描かれるさりげない演出と、オドレイ・ラミーの人間臭さに溢れた演技も素晴らしい。
-
日本未公開映画上映・配給団体Gucchi's Free School主宰
降矢聡
プロフェッショナルな世界は、専門的な知だけにとどまらず、良く生きるための教訓に満ちているようだ。プロの世界とは無縁なものと思っていた私たちの人生が、実はさまざまなところで通じているというお話は個人的にはとても好きだ。本作はそこに未成年の移民という社会問題をほどよく織り交ぜている。少年たちと主人公のシェフが心を通じ合わせていく過程や、移民の強制送還に関する事柄をドラマとしてわかりやすく単純化している感は否めないが、それでも十分に面白くて魅力的。
-
文筆業
八幡橙
「ザ・メニュー」を連想すると震え上がりそうな邦題だが、こちらは爽やかな感動を呼ぶ社会派ドラマ。気難しいシェフと様々な事情から親元を離れフランスに流れ着いた移民の少年たちとのふれあいが、流れるようにテンポよく描かれてゆく。一見不遜なオドレイ・ラミーの顔つきや存在感はもちろん、実際にパリの移民支援施設で暮らす演技未経験の若者たちによる生きた表情や言葉が何より心に残った。強いメッセージとともに遊び心も忘れぬ作り手の邪気のないまっすぐさが気持ちいい。
1 -
3件表示/全3件