レッド・ロケットの映画専門家レビュー一覧

レッド・ロケット

有害なほど利己的で、破壊的にナルシストな元ポルノスターが、故郷に戻って再起を夢見たために大騒動が巻き起こる。2016年のアメリカ・テキサスを舞台に、社会の片隅で生きる人びとの姿を鮮やかに描いた、ひとクセありのヒューマンドラマ。主演は、過去のポルノ出演映像が流出したことで、一時は表舞台から姿を消したことがある、マイキー役とリンクするかのようなサイモン・レックス。監督は「フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法」のショーン・ベイカー。「WAVES/ウェイブス」などの撮影監督ドリュー・ダニエルズが16mmフィルムでテキサス特有の色、湿度、土っぽさを表現した。カンヌ国際映画祭コンペティション部門で上映。
  • 米文学・文化研究

    冨塚亮平

    トランプ大統領選出間近のテキサスを舞台に、ホワイト・トラッシュの現在をリアルに切り取ったドキュメントの要素を持ちつつも、登場人物たちの愚かさや欲望をどこか突き放しながら決して否定もしない絶妙な距離感で捉えることで、あたかも「ブギーナイツ」を受け継ぐかのような、優等生的な社会派映画にはない広がりを獲得できている。また、彼らの空虚さともシンクロする空漠としたテキサスの気候や空気感を16ミリフィルムとシネスコで捉えようとする戦略も見事にハマっている。

  • 日本未公開映画上映・配給団体Gucchi's Free School主宰

    降矢聡

    一見なにも起きないような、地味で下らないお話でも映画は面白くなることは、みんな知っている。そうは知っていても、なにも起きないようなお話で映画を撮る人はなかなかいない。だから、それだけでもうその映画はすごいと思う。そんな限られた退屈なお話を撮ってしまうすごい人は、退屈であることそのものを撮る。なるほど、その手はあるな、と思う。それらに比べて本作はすごい。退屈でくだらないお話を、めちゃくちゃ楽しそうに撮っている。その手があるのか。驚いた。

  • 文筆業

    八幡橙

    フロリダの次の舞台は、並んだ工場が煙を吐き出すテキサスの田舎町。ショーン・ベイカーは今回もやはり、どん底暮らしの中で日々あがく、どこか滑稽で自分勝手で、なのに憎めぬリアルな人間を活写する。スッカラカンで故郷に戻ってきた元ポルノスターが仕事を求めて、だだっぴろい道をふらふらと自転車で駆け抜けてゆくさまは、まったく環境が違うとはいえ山下敦弘監督の「ばかのハコ船」を思い起こさせた。SNSや街中で新人を発掘することで知られる監督独自のキャストがまた絶妙。

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