パリタクシーの映画専門家レビュー一覧
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米文学・文化研究
冨塚亮平
ベタな人情噺に流行りのトピックをまぶしたような内容には特に目新しさはなく、安直に回想シーンに頼りすぎているようにも思えるものの、自身の境遇とも部分的に重なるマドレーヌを演じたリーヌ・ルノーは、人間味溢れる魅力を随所に発揮して、ややおとぎ話めいた物語に十分な説得力をもたらしているし、徐々に表情に柔和さを加えていくシャルル役のダニー・ブーンの変化も良い。一方で、カネが重要となることは設定から避けられなかったのはわかるが、結末の処理にはやや疑問が。
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日本未公開映画上映・配給団体Gucchi's Free School主宰
降矢聡
老婆がタクシーに乗り込む直前に、しみじみと自宅を見上げる主観ショットのほんの数秒が素晴らしい。実はこの老婆は、もう家に戻ることはないと心に決めていたことがのちにわかるのだが、本作が老婆がパリを改めて巡り、過去と記憶を語り直す映画であることを、この数秒の主観ショットがなによりもわからせてくれる。そう聞くと、なんだかノスタルジックなほっこり話かと思いきや、その過去が女性差別や蔑視をめぐる壮絶な歴史であったというギャップにも驚かされる。
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文筆業
八幡橙
運転手と客。パリを走るタクシーに乗る、たった2人の、わずか1日の物語。尺も設定もコンパクトでありながら、壮大かつ濃密な時間と空間、人生の深い機微をも湛える愛すべきロードムービーだ。若き日の恋バナが意外な過去に繋がり、さらに女性が抑圧されていた時代が孕む、今へと通じる社会的テーマにまで及んでゆく。その過程を、タクシーの窓に映るパリの街並みのごとく滑らかに、流れるように描き切る手腕に唸った。2人の会話や近づきゆく距離も心地よい、思いがけぬ名篇。
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