赦しの映画専門家レビュー一覧

赦し

未成年が引き起こした殺人事件である「少年犯罪」を題材に、被害者遺族の元夫婦と服役中の加害者の女性の葛藤を描いたヒューマン・ドラマ。最初の裁判で加害者の夏奈には懲役20年の重刑が課せられたが、事件の事実認定の正当性をめぐる再審公判が決定し、3人の心は激しく揺らぎ出す。“正義”に固執する被害者の父親の克を「義足のボクサー GENSAN PUNCH」の尚玄、一刻も早く過去を拭い去りたい元妻の澄子を「台風家族」「ひとよ」のMEGUMI。夏奈役にはデビュー作「渇き。」で注目された松浦りょうが抜擢された。オリジナル脚本で、被害者遺族と加害者双方の視点を取り入れ、罪と罰という根源的な主題を鋭く探求したのは、長編第2作「コントラ」(19)が国内外で評価された日本在住のインド人監督アンシュル・チョウハン。人と人は互いにわかり合い、憎むべき相手をも受け入れることができるのか。魂の救済、赦しという深遠なテーマに真正面から挑んだ問題作。
  • 脚本家、映画監督

    井上淳一

    未成年による殺人事件で量刑が重過ぎると再審公判が行われる。しかし現実では量刑不当の再審請求が認められたケースは皆無。一人殺して懲役20年なんて成人でもあり得ない。ましてや少年法改正前の未成年で。以上を僕は弁護士に確認したが、この映画の作り手は取材した上で嘘をついているのか。それともこれは別の世界線での裁判なのか。人物描写も不明だが、役者は皆頑張っている。ならばなぜ脚本に異を唱えないのか。もっと自己防衛を。世界では「対峙」が作られているときに幼稚過ぎる。

  • 日本経済新聞編集委員

    古賀重樹

    「ドラマ」としての緊迫感はある。人物の性格や感情が明確で、日本映画にありがちな曖昧さがない。基調にあるのが恥の文化でなく、罪の文化なので、「赦し」という主題がくっきり浮かび上がる。画面の厳密さも緊迫感を高めている。同じ監督の「コントラ」同様、異形の日本映画だ。ただ「裁判劇」としては現実離れしてはいないか。再審が容易に認められない日本でこんな裁判が成立するのか。少年法の理念を問いたいのはわかるが、事実認定の不当を示す明らかな証拠は何だったのか。

  • 映画評論家

    服部香穂里

    観る者には小出しに示される、加害者の動機のようなものが、被害者の両親には共有されていない事実が終盤近くに発覚し、三者それぞれの心情の辻褄合わせのごとき作業を強いられるのは難。とはいえ、自暴自棄に生きてきた少女Aが罪と真摯に向き合い、更生への糸口を懸命に探る成人に変貌する空白の7年を想像させる、松浦りょうの内省的な巧演は目を奪う。判決がどうであれ、悲痛な事件の余波を生き続ける人びとの苦悶は消えないことを、カタルシスを拒む法廷劇に落とし込む力篇。

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