死体の人の映画専門家レビュー一覧

死体の人

未完成映画予告編大賞 MI-CANの派生プロジェクトとして2020年に実施されたMI-CAN3.5 復活祭にて最優秀作品に選ばれた草苅勲監督作を映画化。演技にこだわりを持つ俳優・吉田広志は死体役ばかり回ってくる中、人生の転機を迎え、一世一代の大芝居に打って出る。草苅勲監督は、劇団ハラホロシャングリラにて俳優経験を積み、2005年より自主映画の監督を開始。これまでにオムニバス「スクラップスクラッパー」の第四話「To be or…」などを手がけてきた。主人公・吉田広志を「グッバイ・クルエル・ワールド」「SR サイタマノラッパー」シリーズなど数々の作品に出演する奥野瑛太が、吉田と運命の出会いを果たすヒロイン・加奈を「寝ても覚めても」の唐田えりかが演じる。
  • 脚本家、映画監督

    井上淳一

    今時死体専門の役者なんているだろうか。その設定を受け入れるとしても、かつて劇団の座長までやった男があそこまでバカでいいんだろうか。だいたい妊娠検査薬が陽性だからって、自分が妊娠してるかもと疑う男がいるだろうか。バカでもいいけど、映画の中にしか存在しないバカはダメ。死についての考察も浅過ぎて。懇意になる風俗嬢の彼氏はバンド崩れ。ならばその挫折男を合わせ鏡にして価値観の対決させないと。何がやりたいか結局分からない。唐田えりかが頑張り損。でも頑張れ!

  • 日本経済新聞編集委員

    古賀重樹

    ああこれはあるよな、と思ったのは、テレビの撮影現場で死体役の俳優が、売れている後輩の俳優に声をかけられるところ。人生のレースで抜かれてしまったような軽い敗北感。だからといってへらへら笑うことしかできない無力感と含羞。そんな売れない俳優の実感が、例えば部屋に呼んだデリヘル嬢とのやりとりにもにじんでいる。大仰なコメディ仕立てなのだが、奥野瑛太も唐田えりかも生きるのに不器用な役を自然体で演じている。母親役の烏丸せつこの死に方がとてもいい。

  • 映画評論家

    服部香穂里

    死体役も斬られ役同様、突き詰めれば奥が深く、それをないがしろにする撮影現場は二流であることがシニカルに示唆され、奥野瑛太史上稀なクセのない役柄を通し、彼の演者としての純粋な芯のようなものが垣間見えるのにも興味津々。売れなかろうが役者の道に必死にしがみついてきた主人公と、献身的な恋人に依存し音楽を諦めかけているヒモ男の、紙一重にも見えるふたりの対照性が、烏丸せつこの名演光る母の愛を介して明確に際立てば、さらなる良作に成り得たようにも感じた。

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