彼岸のふたりの映画専門家レビュー一覧

彼岸のふたり

俳優の北口ユースケが初めてメガホンを取り、室町時代の遊女・地獄太夫をモチーフに運命に翻弄される女性たちを描いた人間ドラマ。14年間音信不通だった母が突如現れたオトセ。一方母の店を手伝いながら地下アイドルとして活動する夢は、望まぬ妊娠をし……。新生活の不安と過去の傷に苛まれる西園オトセを東大阪のご当地アイドル『Ellis et Campanule』とアイドルユニット『イロハサクラ』を兼任する朝比奈めいりが、オトセの母を「実録・連合赤軍 あさま山荘への道程」の並木愛枝が演じる。2022年9月17日より大阪・シアターセブンにて先行公開。
  • 脚本家、映画監督

    井上淳一

    児童虐待が本当に赦せない。それを描いた映画も極力観たくないし、その重さを凌駕するだけの覚悟を持った映画もあまり観たことがない。だから本作には驚いた。虐待母と娘と対を成す、地下アイドル娘とシングルマザー。娘もまた未婚の母の道を選ぶ。この置き方には唸った。これによって、家族という枠など最初から必要ない、それでも残る親子という厄介さにどう向き合うかというテーマが明快に浮かび上がる。この脚本家と監督に早く仕事を頼んだ方がいい。あっという間に売れるはず。

  • 日本経済新聞編集委員

    古賀重樹

    この新人監督も非凡な演出力がある。虐待のトラウマをもつ主人公が押し殺している心の声を、幻覚としてつきまとう男に託す。いかれた母親への抑えられない思慕がその声を制する。そんな複雑な心理劇を3人の俳優の演技で見せ切ってしまう。画面も力強い。傷ついた女児が空のバスタブで怯えながら、母親のために誕生日の歌をうたう強烈なショットから始まって、ずっと目が離せない。脇筋の地下アイドルの話がいまひとつ本筋と?み合っておらず、図式的なのが残念。

  • 映画評論家

    服部香穂里

    永田洋子役での怪演が未だ鮮烈な並木愛枝が、“毒親”以前の人間像に肉迫し、親子間の悶着とは、報道されるものは氷山の一角で、誰もが当事者になり得ると痛感させられる。娘の側も、そんな身勝手な母親を信じたい幼さと、おっさん姿だが分身のようでもある幻影が示唆する成熟が混在し、切っても切れない肉親の愛憎のせめぎ合いの行方に真実味をもたらす。二代にわたりシングルマザーの道を選ぶ地下アイドルとの絡みが、楽曲を売り出す以上の意味を成さぬように見えるのが難か。

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