TOCKA タスカーの映画専門家レビュー一覧

TOCKA タスカー

死を決意した男とそれを叶えようとする男女。3人の彷徨の旅を描く物語。北海道のオホーツク海沿岸の街で中古電器店を営む谷川章二は、人生に行き詰り、娘に保険金を残して死のうと思っていた。彼はそれぞれ人生に疲れた本多早紀、大久保幸人と出会うが……。出演は「映画 深夜食堂」の金子清文、「ワタシの中の彼女」の菜葉菜、NHK 連続テレビ小説『舞いあがれ!』の佐野弘樹。監督は、これが「YUMENO ユメノ」以来、17年ぶりの長編映画となる鎌田義孝。
  • 映画・音楽ジャーナリスト

    宇野維正

    16ミリフィルムの粗い解像度で捉えられた根室や釧路や室蘭の寂寥感漂う広大な風景に、斎藤ネコの抑制が効いた劇伴が流れてくるそのセッティングだけで、映画としてのツカミはバッチリ。しかし、70年代ATG作品を思わせるような地べたを這いつくばって生きている3人のメインキャラクターの造形には、現代社会の生活者としてのアクチュアリティが希薄で、ひたすら沈痛なだけの絵空事を見せられているような気持ちに。そこに監督の狙いがあることは伝わってくるのだが。

  • 映画評論家

    北川れい子

    冬のオホーツク海岸のじっとりと重い灰色の冷気が、16ミリフィルムによる映像からダイレクトに伝わってくる。荒涼としたそんな風景の中を、生気のない中年男と投げやり気分の女、やけっぱちの若者が、付かず離れずに動き回っている。女と若者は中年男から俺を殺してくれと頼まれているのだが、見ず知らずの他人をいくら頼まれたからといって、そう簡単に殺せるはずもない。海中に車が突っ込んでの本能的リアクションを含め、無様なりに奇妙な解放感があり、俳優たちの演技も見事。

  • 映画文筆系フリーライター。退役映写技師

    千浦僚

    インディーズ映画の豊かさ、良さに、観ているとこちらにアルファ波をドバドバ出させるロケーションのパワーがある。予算が潤沢な映画にはそれができない。金があることの傲慢さが風景と世界に対する謙虚さや畏怖を壊しているから景色が沁みないのだ。本作の景色は大きく、美しく、禍々しく、登場人物を正しく苛む。これは瀬々敬久監督に代表されるようなピンク映画の美質でもあった。その継承、発展が嬉しい。罪の手触り、金子清文の死と、菜葉菜と佐野弘樹の交わりに撃たれた。

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